第31号 ムーグのドライビングシミュレータが、ダラーラ社のレーシングカー開発期間の短縮やドライバーのトレーニングの改善に貢献 2013年10月

ムーグの一般産業部門は、レーシングカーのトップメーカーであるダラーラ社向けに、レーシングカー用のテストとシミュレーションを行う高性能ドライビングシミュレータを設計し、納入しました。ダラーラ社は、コース上での実走テストと比較して、製品開発の所要期間を短縮し、テストとドライバーのトレーニングにかかる費用を節約できる効果的な方法を模索していました。そこで同社は、ドライビングシミュレータの性能を向上させるために、6DOF(6自由度)電動モーションベースのトップ企業であるムーグに対し、ドーム、ステアリングホイール制御負荷システム、リアルタイムコントローラ搭載の電気キャビネット、およびムーグ製キューイングソフトウェア搭載のリアルタイムPCを統合化したモーションシステムの開発を依頼しました。これに対してムーグは、航空、防衛、自動車業界における革新的なテストやトレーニングシステムで優れた実績のある高精度のモーションシミュレーション技術をベースに、ソリューションを提供しました。

動画: ムーグのドライビングシミュレータ(ダラーラ社関連を含む)

イタリアのヴァラーノ・デ・メレガーリに本拠地を置くダラーラ・アウトモビリ社は、世界トップレベルの複数のレーシングチームに対して、設計、エンジニアリング、およびサポートサービスを提供しています。同社では、2010年にドライビングシミュレータを導入して以来、ムーグのテストシステムによって、トレーニングの時間の短縮と費用を削減し、レースコースの実走テストに伴う問題や安全面の懸念を払拭し、設計上の選択肢に対する評価力を向上させるとともに、開発プロセスの早期段階からフィードバックを得られるようになるなど、多岐にわたる効果を得てきました。

高性能ドライビングシミュレータは、モータースポーツのテストとシミュレーション専用に開発されました。この用途では、レーシングドライバーが車両の挙動を最大限正確に体感できるようにするために、非常に小さなレイテンシー(遅延時間)と、精度の高い加速と速度の動作が求められています。ムーグは、周波数応答に関する厳しい仕様を満たすため、剛性が高く重量の軽いアクチュエータを新規に開発し、6自由度モーションシステムに組み込みました。

シミュレータに搭載されたムーグの制御負荷システムは、ステアリング操作時にフォースフィードバックを提供します。また、ドームの特殊な形状と構造、そして高品質のビジュアルシステムにより、制御負荷システムの忠実度が向上しています。

一般的に、高性能ドライビングシミュレータには、ドライバーが操作する際に感じる力を再現するために、制御負荷システムが使われます。この技術は、数十年前からフライトシミュレータの操縦装置に幅広く応用されてきたものです。応答性の高いアクチュエータ(制御負荷装置)と高機能コントローラを組み合わせることにより、最もリアルな体験が可能となります。サーボドライブは、リアルタイムコンピュータからの信号を増幅して、必要な力を発生させるための電気制御信号を制御負荷装置に送信します。ホストモデルコンピュータ上のソフトウェアは、車両のタイプと運転スキームに対応して、必要な力の情報を送信します。

図1: ダラーラ社のムーグ製ドライビングシミュレータ(提供:ダラーラ社)

ダラーラ社のCEO兼ゼネラルマネージャーであるアンドレア・ポントレーモリ(Andrea Pontremoli)氏は、次のように述べています。「このシミュレータは、運用を開始して2年余りになりますが、新製品の開発にかかる時間と費用の削減や、レース前に行う車両セッティングの最適化とドライバーのトレーニングにかかるコストの削減に不可欠なツールとなっています。それに、製造工程に進む前の車両の部品やボディの評価と調整に非常に役立っています。例えば、開発の早期段階で使用していた試作車の製造台数を減らし、その大部分を高度なコンピュータモデルに置き換えてシミュレータ上でテストできるようになりました」。

シミュレータを使用してレース前にドライバーのトレーニングを実施することには、多くの利点があります。ダラーラ社では、トレーニングの質を低下させることなく、時間と費用を大幅に削減しています。ドライバーがサーキットごとに異なる小さな路面の凹凸まで感じられるよう、レースコースの路面はレーザースキャンされ、その結果がサーキットソフトウェアモデルに組み入れられます。これに加えて、ムーグの高応答アクチュエータと、モーションキューイングソフトウェア内の高度なアルゴリズムを組み合わせることにより、非常にリアルな運転体験が実現されます。ダラーラ社は、このシミュレータによるトレーニングをレース前の車両セッティングの最適化にも活用しており、その結果、セッティングの最適化を終えるまでに必要なコースの実走回数を減らすことができました。また、シミュレータを使って、レースの作戦会議や準備、指示を行うこともできます。さらに、実際のレースコースのトレーニング走行には時間的な制約があるのに対して、シミュレータは毎日24時間、いつでも使用できるという利点もあります。

図2: 制御室から見たシミュレータの様子(提供:ダラーラ社)

その他に、このシミュレータはレースコースの走行に伴う多くの問題の克服や、安全性の向上に役立っているという大きな利点があります。レースコース上でトレーニング走行をする際には、電気系統や機械の不具合が発生してトレーニングに支障が出たり、場合によってはレース自体に悪影響が及んだりすることもあります。サーキット上でのレースの安全性は向上していますが、高性能シミュレータの絶対的な安全性には及びません。

ドライバーのトレーニングの改善に加えて、ダラーラ社では、車体の部品、ボディ、モデルの完成までの設計と開発にかかる時間の短縮にも成功しています。このシミュレータを使えば、設計上の選択肢の影響度合いを正確に測定することが可能となります。例えば新設計の車体モデルをシミュレータに読み込み、ドライバーによるテストを実施することができます。こうした手法は、新しいエアロパーツやスプリング、ショックアブソーバ等の評価や、燃料の積載量によるタイヤの挙動や劣化への影響に関するテストにも応用できます。また、風洞実験で車両の空力特性を検証するのと同じように、シミュレータ上で車両の操縦特性を検証することができます。

図3: シミュレータの内部(提供:ダラーラ社)

ドライビングシミュレータを使用して、開発プロセスの早期段階でドライバーからフィードバックを得ることには、多くのメリットがあります。例えば、車両モデルの改善すべき点を特定したり、必要な代替設計案の数を減らしたりすることができます。またシミュレータ環境では、経験の浅いドライバーからもフィードバックが得られます。危険な運転操作も含めて、あらゆる運転条件を安全な環境下で試すことが可能です。

ムーグは、さまざまな完成車メーカーと部品メーカーで使用されるドライビングシミュレータ向けに、モーションシステムを提供してきました。各種の設定を施したドライビングシミュレータは、例えば自動車の乗り心地の評価、ドライバーの運転行動の研究、運転支援システムの評価などの用途にも利用できます。また、高性能ドライビングシミュレータは、これらの用途における自動車の設計や開発、ならびにその試作車の最適化にも大きく役立ちます。シミュレータとモーションシステムのタイプを選定する際には、使用用途において要求される精度のレベルが非常に重要な項目となりますが、ムーグはお客様と共同で要件を評価し、適切なテクノロジーの導入を支援します。

 

筆者について

Frans Niewoldは、ムーグのテストシステム担当のシステムおよびアプリケーションエンジニアで、自動車業界向けのテストシステムの開発に従事しています。2004年に、固定および回転ウィングシミュレータ用のモーションシステムに関するソフトウェアおよび技術開発を担当するソフトウェアおよびアプリケーションエンジニアとして、ムーグに入社しました。Fransは、オランダのトゥウェンテ大学で機械工学を専攻しました。

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