第32号 技術革新と協業を通じて理想的なピッチ制御を実現 2014年7月

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この記事のポイント:

  • 洋上の過酷な運転環境と長寿命化のニーズにより、風力発電機の高性能なピッチ制御の重要性が高まっています。
  • ACアーキテクチャやソフトウェア、閉ループ速度制御における技術革新は、発電性能の向上と安全性の確保に役立っています。
  • ピッチ制御システムのサプライヤー選びでは、経験豊富で顧客志向の企業を選ぶことが重要です。

環境条件の厳しい、陸から遠く離れた沖合に設置される風車が増加する中で、これらを安定した電源として稼働させるために、信頼性の高いモーション制御システムに対するニーズが高まっています。ムーグでは、お客様と協働してタービンそのものや発電事業の安全性を確保しながら、全体的な信頼性と稼働率の最大化に貢献するピッチ制御のシステムや製品、サービスの開発に継続的に取り組んでいます。ムーグのACピッチ制御システムは、新しく導入されたタービンの速度を自動的に感知して制御する機能によって、エンコーダが故障するとブレードを動かせなくなるという、風力発電機にとって最悪の荷重状態を回避することができます。


風力発電の拡大と風車メーカーに求められる継続的な技術革新

人類は、太古の時代から風の力をエネルギー源として積極的に利用してきました。地球規模で増加するエネルギー需要と環境保護意識の高まりにより、現代の電源としての風車に関する研究開発はますます盛んになっています。現在、すべての再生可能なエネルギー源の中で、風力は最も多くのエネルギーを生産していますが、発電量はさらに増大できる可能性があります。世界的なトレンドが再生可能なエネルギー源の活用に向かっている中で、各国の政府や電力会社は、より大型で高出力の風車を、陸上や洋上の過酷な環境条件の場所に設置するための研究を進めています。

陸上と比較して、洋上にはスペースの制約がほとんどなく、稼働に関する制限は少なく、高さやローターの直径に対する規制もないため、大型で高出力のタービンが積極的に設置されています。一方、このことは、運用上の課題や、ダウンタイムによる大きな損失の原因にもなっています。強風や高波の中では、タービンを修理しようとしても現場へのアクセスが難しく、まったく近づけないこともあるからです。その結果、風車のOEMメーカーは、従来とは異なる、より複雑な性能の実現という課題に直面しています。幸運なことに、こうした課題の解決には、風力発電機向けの最新のモーション制御ソリューションを役立てることができます。

風力発電機の安定稼働を支える技術の中でも、地味ながら最も重要なものの1つに、ピッチ制御システムがあります。ピッチ制御システムは、風車のブレードのピッチ角を監視、調節することによって、ローターの回転速度を制御します。ピッチ制御システムのコストは、多くの場合、風車全体の費用の3%以下を占める程度のものに過ぎませんが、高い安全性と効率の維持に関しては非常に大きな役割を果たしています。タービンが大型化し、遠隔地での設置台数が増えるのに伴い、ピッチ制御システムを設計・製造するメーカーは、技術革新のための継続的な努力を欠かすことができません。


2つの重要な要件

風力発電機のピッチ制御システムは、2つの重要な機能を備えていなければなりません。1つは、風速がタービンの定格値を上回ったときに、タービンの速度と発電量を制御するためのアクチュエータとしての機能です。もう1つは、風車を停止させるブレーキ用アクチュエータとしての機能です。さらに、ピッチ制御システムは、標準規格(例: GL 2010やISO 13849)に準拠し、キャビネット外の最低気温-40℃からキャビネット内の最高温度70℃までの温度に耐え、洋上または陸上の過酷な環境条件下で高い信頼性を発揮しなければなりません。

風車メーカーと風力発電事業者は、ピッチ制御システムに関して、以下の2つの主要な要件を特に重視しています。

  1. 1.タービン全体の信頼性を向上させることでダウンタイムを削減し、稼働率を最大化すること。風力発電事業における稼働率は、製造業における設備の生産性と同じ意味を持ちます。
  2. 2.タービンと発電事業者の安全を最大限に確保すること。風力発電機では、その大きさと高さ、巨額な建設費用から、安全性が重視されます。ピッチ制御システムは、タービンの回転速度を許容範囲内に抑える重要な役割を果たします。

ムーグのソリューション

ムーグは、陸上および洋上風力発電機のための高性能のピッチ制御システムとピッチ制御製品を開発・製造しています。現在、ムーグのピッチ制御システムを備えた製品は、世界の2万2,000台を超える風車に4万点以上が設置され、稼働しています。ムーグでは、風車の大手OEMメーカーや風力発電事業者と協働して、性能、効率、信頼性を最大化した電動式および油圧式ソリューションの設計に取り組んでいます。

 

モジュール式ACアーキテクチャが、風車の稼働率のライフサイクル全体に渡る向上を実現

ムーグのACピッチ制御テクノロジーは、風力発電機分野のお客様の要求に応えるため、常に進歩し続けています。ムーグのエンジニアは、分散制御を効果的に利用して、従来よりも小型でシンプルなモジュール式ACアーキテクチャを設計しました。これにより、システムを構成するコンポーネントの総数が減り、信頼性が向上しています。ムーグでは、ピッチ制御システムのモジュール化の取り組みを継続的に進めることで、設計、製造、保守の業務を最適化し、コストの削減に役立てています。また、システムおよびモジュールレベルで集中的な検証とテストを実施し、風車メーカーと風力発電事業者が求めるダウンタイムの削減、生産性の向上、さらにはエネルギーコストの削減につなげています。

 

典型的なアーキテクチャ

図1: バックアップ・キャパシタを搭載したムーグのACサーボアーキテクチャ

このほかにも、既存のピッチ制御システムに対して、いくつかの改善が行われています。その1つに、ムーグの風力関連製品のラインナップに新たに加わった堅牢型モーションコントローラがあります。IP67クラスに準拠したムーグの堅牢型モーションコントローラは、-40~70℃という広範囲な温度条件下で運転できます。このモーションコントローラは、関連するシステム統合用ソフトウェアと同様に、過酷な環境条件下での使用を前提として設計され、ムーグの集中的なテストを通して、強い衝撃や振動、高湿度などに耐える信頼性を確保しています。

ムーグの最新のリモートターミナルソフトウェアも、稼働率の向上に役立ちます。悪天候で海が荒れているときにメンテナンススタッフが風車に乗り移るのは、簡単なことではありません。一般的に、海上の構造物に人を送る場合はヘリコプターを使用しますが、風車にヘリコプターを近づけることはできません。スタッフは小型ボートでアクセスするのですが、天候が改善して荒波が治まるまでに長い時間がかかり、定期メンテナンスや緊急メンテナンスの開始が大幅に遅れる場合があります。このリモートターミナルソフトウェアは、時間とコストのかかる現場の巡回保守を不要にし、風力発電のエネルギーコスト(COE)を下げるのに重要な役割を果たします。

ムーグの風力発電機ピッチ制御用リモートターミナルソフトウェア

図2: ムーグの風力発電機ピッチ制御用リモートターミナルソフトウェア

ムーグのエンジニアや顧客の保守担当者は、単一のGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を使って、このソフトウェアにアクセスできます。このソフトウェアは、実績のあるアーキテクチャに基づいて設計されており、ユーザーは、ピッチ制御システムの運転状況のリモート診断や、予防メンテナンスの計画策定、内蔵されたリモート式ソフトウェアオシロスコープ等の機能によるトラブルシューティングを実施できます。また、状況をモニタリングする機能も備えているため、問題となりそうな部分の早期診断を可能にし、タービンのダウンタイム削減に大きく寄与します。このツールは、風力発電事業者が、効果的で的確な現地メンテナンス作業の計画を立てるのにも役立ちます。

 

セルフセンシング式閉ループ速度制御による安全の確保

ムーグの風力発電機用のセルフセンシング式閉ループ型ピッチ速度制御は、エンコーダが故障すると個別のブレードを動かせなくなるという、風車にとって最悪の荷重状態を回避するために開発された最新のテクノロジーです。タービンの回転を停止させるためには、3枚のブレードをすべてフェザリング状態に移行させる必要があります。その際には、すべての構造部品にかかる荷重を分散してバランスを取りながら、3つのピッチ制御軸を同時に動作させ、ブレードを風と平行にする必要があります。

1つのピッチ制御軸の位置フィードバック信号が途切れた場合に、ピッチ制御アクチュエータによってフェザリング動作を実施する開ループ式の制御技術には、従来からさまざまな構成のものがあり、油圧アクチュエータやDCモータ、AC誘導モータ等が使われてきました。しかし、これら3種類のアクチュエータには、それぞれの軸の動作速度が、ブレードにかかる荷重に大きく影響されるという共通の欠点がありました。ムーグの新しい制御技術は、この欠点を克服しています。

ムーグの新しい閉ループ速度制御システムは、AC誘導モータまたはAC同期モータ用に設計された最新のセルフセンシング式制御技術と比較して、静止時状態から発生させることのできる定格トルクが最大で3倍に達し、フェザリング位置への移動を安全かつ高性能に実施できます。このソリューションは、タービンに疲労負荷モニタリングシステムを搭載することで、タービン構造全体の疲労負荷を耐用期間全体に渡って軽減し、寿命を延ばすことができます。多くの風車は、その他の種類の発電所と同様、建設から20年近くになろうとしているため、風力発電事業者は耐用年数の延長に関心を寄せています。タワー、ブレード、メインフレーム、ベアリングといったタービンの主要な構成部品の疲労履歴は、タービンの耐用年数を延ばすうえで最も重要なポイントとなります。

ムーグの新システムでは、ピッチ制御システムに同期モータを使用できるようにしています。その理由は、モータの位置フィードバックが途切れても、閉ループ速度制御の継続が可能となるためです。これにより、ブレード間でピッチ速度が同期しない場合にタービンに発生する大きな荷重を回避できます。

改良されたムーグのACピッチサーボテクノロジーは、安全性と信頼性が証明されています。ムーグのピッチサーボドライブ(PITCHmaster IIとPITCHmaster II+の2モデル)は、テュフ ラインランド社によるGL 2010認証を取得し、ISO 13849-1にも準拠しています。風力発電機の安全性は、複数の競合する規格によって管理されており、これには、風力発電機の安全性に関するGL 2010ガイドラインで適切な安全規格であるとされたISO 13849-1も含まれています。ムーグのピッチサーボドライブは、電動ピッチ制御システムにおいて、風車の運転中とフェザリングによる安全動作の際にブレードの角度を制御する主要コンポーネントであることから、これらの規格に準拠することが重要です。このサーボドライブは、ムーグのピッチ制御システムの分散制御コンポーネントの中で最も重要な位置を占め、故障時でも必要に応じて独自に動作する必要があります。

Tobias Rösmann、Steffen Adelt、Arne Grüning、Frederik Hermsen, Alf Vetterは、「セルフセンシング式閉ループピッチ速度制御による風力発電機の非常停止時のタービン構造への荷重低減」と題したホワイトペーパーを発表しています。

ムーグの新しいACピッチ制御軸サーボ(PAS)のコンセプトには、このセルフセンシング式閉ループ速度制御機能に加え、他にも有用な機能が含まれています。新型の埋込永久磁石同期モータ(IPMSM)は、ピッチ制御アプリケーション用に新たに設計されました。このモータは、低速のピッチ制御動作中に確実に最大効率を達成することができ、送電網の停電時でも、最大で定格値の3.5倍のピッチトルクを発生できるピークトルク性能を備えています。このモータとサーボドライブの組み合わせは、送電網の停止時やモータの位置フィードバックループのトラブル時でも、フェザリング動作の速度を完全に制御します。

 

結論

ムーグは、世界中で稼働している数万点のピッチ制御製品とシステムのサプライヤーとして、大手の風車メーカーや風力発電事業者と緊密に連携し、風車の効率、信頼性、耐用寿命を最大化するための新たな方法を探っています。ムーグのエンジニアは、世界中のお客様と密接な交流を持つことで、より高度な技術の導入を進めながら、陸上および洋上風車の発電能力の向上に貢献できるよう、努力を続けています。

詳細については、http://www.moog.co.jp/japanese/markets/energy/wind-turbines.htmlをご覧ください。

 

筆者について

Tobias Rösmann, Dr.-Ing.は、ムーグの風力テクノロジー開発部門のリーダーを務めています。2006年にドイツのドルトムント工科大学で電気工学の学位を取得し、ムーグに入社後は、ピッチ制御システムの開発に従事してきました。2012年には、ベルク大学ヴッパータールで電動ドライブおよびモータ制御分野の博士号を取得しました。

 

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