第34号 特定の技術に偏らない設計アプローチによる射出成形機のメリット 2014年10月2日

大きな比重を占めるエネルギーコスト

この記事のポイント:

  • ムーグの調査により、プラスチック加工業界の主要なトレンドと課題を明らかにしました。
  • 機械設計者は、エネルギー効率や生産性、性能、コンタミネーションのない作業に関する新基準に対応しなければなりません。
  • 特定の技術に偏らないモーション制御設計が、真の競争力を生み出しています。

2013年秋、ムーグは、プラスチック射出成形機のメーカーとユーザーを対象として、業界の最新の状況について調査を行いました。ここでは、射出成形機に関するメーカーとユーザーの最新のニーズなど、この調査の最も重要な結果を紹介します。

射出成形には幅広い用途があり、さまざまなサイズや性能、再現性を持つ射出成形機が開発されています。それに伴い、モーション制御についても、さまざまな要求項目を同じレベルで満たす単一の技術はありません。ドライブ装置には電気機械式、電気油圧式、電気静油圧式が併存し、それぞれのモーション制御ソリューションには、特定の用途に適した長所があります。

射出成形品と射出成形機、それぞれの市場

2009年、欧州市場で射出成形されたプラスチックは、1,099万トンに達しました。図1は、エンドユーズ市場別に分類したデータです。

エンドユーズ市場別に分類したデータ

図1:包装用がエンドユーズ市場の50%近くを占めています。
資料提供: AMI report M118/March 2010、ムーグにより新たに分類

射出成形機の市場は、エンドユーズ市場に連動します。2012年は、主に包装材と白物家電の製造に使われる汎用射出成形機が世界で最も多く販売されました。

一般的に、この分野は、毎年一桁台の低い成長率で安定的に拡大しています。高精度機や包装材製造用の高速機は、それを少し上回る成長が見込まれます。高精度機はサイクルタイムが短く、再現機能を備えています。これらは、主に技術部品や電子、通信、自動車部品の生産に使われます。包装材製造用の高速機は、非常に堅牢で高い射出性能を備え、主にカップや容器などの薄肉包装用製品の大量生産に用いられます。

射出成形機の2012年世界販売実績

図2: 射出成形機の2012年世界販売実績。
資料提供: Engel、 Plastics Today

市場の現状と重要なトレンド

射出成形機メーカーが成功するためには、顧客の要求とニーズを正確に把握することが重要です。そこで私たちは、プラスチック加工メーカーに対し、ニーズを明確に把握するため、以下の質問をしました。

「プラスチック加工業界で現在最も重要な要件とニーズは何ですか?」

その結果、現在、プラスチック加工メーカーは、製造コスト全体の継続的な削減に取り組んでいることがわかりました。この目的を達成するため、各社は、エネルギーの節約、材料の節約、追加的生産工程の統合化、キャビティ数の増加またはサイクルタイムの短縮による機械製造量増大という4つの点に注力しています。

コスト削減のニーズに加えて、プラスチック加工業界では、食品包装、化粧品・衛生用品、医薬品の分野において、製造条件に関する特殊な要求を満たす必要があります。これらの分野では、最終製品に油や埃、その他の汚染物質が混入することが許されません。そのため、製品の清浄度に関する要件を満たす製造環境が必要となります。

このようなニーズや要求から生まれるトレンドとは、どのようなものでしょうか?プラスチック加工業界は、次の4つの主要分野に集中して取り組んでいます。

  1. エネルギー効率
  2. 生産
  3. 機械性能
  4. クリーンな製造

社会的な背景: 持続可能性

少なくとも2つのトレンドは、ジョン・ネイスビッツ氏が言う「メガトレンド」に該当します。これらは、資源(化石燃料など)の継続的な不足と、一般社会における持続可能性の議論を念頭に置いて検討する必要があります。その際には、エネルギー効率と、今後も長期間存続させる必要のある再生不可能な資源の持続可能な取り扱いが、中心的なテーマになります。これらのトレンドは長期間に渡って継続し、その影響は、大きな社会的・経済的変化に結びつくと予想されます。

1992年のリオ会議と2005年の京都議定書を経て、特に欧州では、持続可能性が政治的意志に支えられ、その達成に向けた国際法や国内法の整備が進められていくでしょう。こうした新たな基準により、メーカーには、新しい発想と製造プロセスが求められています。

その影響は、射出成形機メーカーにも及びます。その典型的な例が、ドイツが「エネルギー利用製品法」(EBPG)として施行したEUエコデザイン指令(2009/125/EG)です。このエコデザイン指令は、欧州連合内での流通量が年間20万個以上の製品を対象としているため、射出成形機メーカーには直接適用されません。しかし、一部の部品(例えば、電動モーター)はこの基準に当てはまるため、間接的な影響があります。

また将来的には、射出成形機を使用する企業は、エネルギー効率の継続的な改善に役立つ業務プロセスを備えていることを証明する義務を負うことになるでしょう。そのため、企業の多くは、この証明のために必要な取り組みをすでに進めています。これを後押ししているのが、再生可能エネルギー促進法(EEG)により電気料金に上乗せされる課税分を部分的に還付する制度です。ドイツでは、2013年に、この税金に上限を設ける制度が導入され、DIN ISO 50001に準拠するエネルギー管理システムを2015年までに導入する大企業と、DIN EN 16247-1に準拠したエネルギー監査を受ける中小企業が適用対象となっています。

図3: 効率性に優れた高性能射出成形機
(資料提供: 住友(SHI)デマーグ社)

プラスチック加工業界からの調査回答で一致したのは、射出成形品の製造コストの大部分が原材料費で占められているということでした。プラスチック加工メーカーは、主に金型の設計を最適化することにより、原材料費を引き下げることができます。一方で、原材料費は、商品取引市場の影響も受けます。とはいうものの、メーカーが製造現場で自らの努力によって直接できることが主に2つあります。1つは、原材料を経済的に使用することで、製造コストの大幅な削減が可能です。もう1つは、射出成形機の生涯コスト全体を削減することです。原材料費を除くと、事業費全体の大部分はエネルギーコストが占めています(図4を参照)。

エネルギー効率が高く、堅牢な品質を備えた射出成形機は、標準的な機械よりも購入費用は確かに高くなりますが、運用コストを低く抑えることができます。したがって、多額の初期投資を比較的短期間で回収でき、収益の大幅な改善につなげることができます。エネルギー効率と持続可能性の高い射出成形機を導入することは、社会のトレンドに一致するだけでなく、商業的にも理に適っています。

図4: 射出成形機のライフサイクルコストの大部分はエネルギーコストが占めています。
資料提供: Bonten、Resources Efficiency with Plastics Technology, 2014, S. 60

射出成形機市場の背景とエネルギー効率、生産効率、機械性能、「クリーンまたはコンタミネーションのない製造」に関する個別のトレンドの詳細については、ホワイトペーパー全文をダウンロードしてください。

ムーグのソリューション: 緊密なパートナーシップと、特定の技術に偏らないアプローチ

射出成形は応用範囲が広く、用途に応じて異なった種類の射出成形機が必要とされ、その種類に応じてさまざまなモーション制御技術が存在します。サイズ、出力、再現性の要件に対して、電気機械式、電気油圧式、電気静油圧式、あるいはハイブリッド型(油圧と電気のミックス)のドライブにより、それぞれ最も経済的なソリューションを提供しています。しかし、モーション制御のサプライヤーの多くは、これらのうち、いずれか1つの技術だけに特化しています。提供される技術が限られることによりさまざまなデメリットが生じ、多くの場合、射出成形機メーカーは機械設計で妥協することを余儀なくされます。

そこでムーグでは、早くから特定の技術に偏らないアプローチを取れる体制に移行し、そのために必要となるあらゆるタイプのモーション制御ソリューションの深い専門的ノウハウを蓄積してきました。これは、すべてのモーション制御ソリューションを適切に評価し、個別の用途における要件を最善の方法で満たすための唯一の選択肢です。緊密なパートナーシップと高性能な主要構成部品に加え、用途に対する十分な理解とプラスチック加工市場における長年の経験を基盤とし、特定のタスクの実行に最適なモーション制御ソリューションの開発を行っています。

以下に簡単な事例を紹介します。

事例1:動作軸は大きな駆動力を生み出す必要がありますが、多くの場合、静油圧ドライブによって最も経済的なソリューションを実現できます。射出成形機の主要な動作軸が電気機械式であっても、補助動作軸(エジェクタ、キャリッジ)には電気静油圧ドライブが最適な場合があります。このソリューションは非常に堅牢であると同時に、高い効率(エネルギー効率)、優れた応答性(生産効率と機械性能)、高いシール性能(清浄度)を備えており、4つのトレンド分野のすべてにおいて優位性があります。

密封型の自律静油圧アクチュエータ

図5: 密封型の自律静油圧アクチュエータ

事例2: 低慣性モータは、クランプと射出軸の性能を最適化する上で重要な役割を果たします。ムーグのブラシレスサーボモータは、きわめて高い応答性と魅力的な各種性能値により、機械性能だけでなく、エネルギー効率や生産効率も改善することができます。液体冷却バージョンは表面を低温に維持でき、熱による空気の対流を抑えることができます。これにより、埃の粒子の移動が抑えられ、クリーンな製造環境を実現できます。

優秀な応答性を備えたブラシレスサーボモータ

図6: 優秀な応答性を備えたブラシレスサーボモータ

まとめ

射出成形機メーカーは、(1)エネルギー効率、(2)生産効率、(3)機械性能、(4)クリーンな製造の4つの市場トレンドに対応することで売上増加を見込めます。これらのトレンドに関連する要件は、異なる技術を使って満たすことができます。特定の技術に偏らないアプローチが最も経済的であり、経済性と効率性、高い性能を実現するモーション制御ソリューションの可能性を高め、その結果、決定的な競争優位性を顧客にもたらします。

筆者について

産業機械分野向けソリューションマーケティングマネージャーのBurkhard Erneは、工学部大学院出身の機械工学専門のエンジニアです。2005年に、電気機械ドライブソリューションのエンジニアリングマネージャーとしてムーグに入社しました。それ以前は、長年に渡って数多くのモーション制御技術の開発プロジェクトを指揮し、主にプラスチック成形機のエネルギー効率と生産性を向上するソリューションの開発に携わっていました。お問い合わせは、berne@moog.comまでご連絡ください。

 

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