第28号 サーボ弁の長寿命化 2012年12月


サーボ弁は、素材試験、構造試験、シミュレータ装置、プラスチック成形などの分野において、油圧システムの位置決めや速度、圧力の制御用途で重要な役割を果たしています。運用コストは上昇し、設計エンジニアは機械の性能向上をより強く求められるようになっていますが、そうした中で、機械の全体的なライフサイクルコストに対する個々の部品の影響を評価することは、ますます重要になっています。

ウィリアム・ムーグの革新的なフィードバック機構設計

ムーグのメカニカルフィードバック式サーボ弁には、弁のスプール位置を正確に把握して、電気入力に比例した位置で停止させるフィードバック機構が搭載されています。1951年、ウィリアム・C・ムーグは、この革新的な技術の商用化に成功し、産業界に革命をもたらしました。それ以来、ムーグは60年以上に渡って、サーボ弁のトップメーカーとして広く知られてきました。

ムーグサーボ弁の技術革新の歴史

これまでの61年間、ムーグの技術者は、一貫してサーボ弁の高性能化と技術的改善に力を注いできました。1960年に発売した071シリーズは、世界初のドライエアギャップ方式のノズルフラッパ・トルクモータの開発へとつながりました。その2年後、ムーグの技術者は、高応答の産業用サーボ弁の073シリーズを開発しました。また、1967年には、応答性能をさらに高め、漏れを低く抑えた076シリーズを発表し、新たな世界標準として一気に普及させました。この革新的なシリーズは、箱形のボディにテーパ形状のブッシングを搭載し、パイロットフィルタとチューブフィルタの現場での交換を可能にしました。

1970年代と80年代には、曲線的なボディ設計とスプールのさらなる小径化によってサーボ弁の改良を進める中で、将来的な設計改善に向け、コストの低減が重要な目標になりました。1998年には、G761-3001油圧サーボ弁を発表しました。この製品には、ディスクフィルタ、箱形ボディ、一体型フラッパ/ワイヤといった多くの優れた設計が盛り込まれ、特に数十年間使われてきた従来のスチール製のボール(競合他社は現在でも使用中)に代えて採用したカーバイドボールは、大きな進歩につながりました。カーバイドの利用技術は1994年に開発されていましたが、これを主要なテクノロジーとして初めて本格的に採用したのがG761-3001サーボ弁でした。

この設計は、ムーグの高性能産業用サーボ弁の技術水準を新たなレベルへと引き上げました。

現在では、高応答、高精度のアプリケーションは驚くほど多岐に及ぶため、高い性能と長寿命を可能にする技術的特性を1つに絞ることはできません。そうした中で、多くのメーカーは数百万サイクルの寿命を長寿命と定義していますが、ムーグでは、10億サイクルという異なる基準で定義しています。

サーボ弁の耐用寿命を大幅に伸ばすための取り組みは、設計、製造、組立方法から始まります。

サーボ弁の長寿命化を実現する主な3つの手法

油圧サーボ弁には、長寿命化、想定外のダウンタイムの最小化、継続的な信頼性の提供に結びつく3つの重要な設計要因があり、それらは以下の通りです。

  • フィードバック機構にカーバイドボールを使用する
  • スプールにボール・イン・ホール設計を使用する
  • ボールとワイヤの接合にろう付けを使用する

図1: 10億サイクルの試験を実施したステンレスボールを観察すると、摩耗の跡が確認できます。カーバイドとサファイアには、このような摩耗は見られません。ムーグでは、カーバイドボールを使用することにより、高性能と長寿命を実現しています。また、カーバイド素材には、フィードバック機構のワイヤをろう付けによって接合できるという利点もあります。これにより、工業分野の使用環境における信頼性が、さらに向上します。

手法1: カーバイドボール構造

サーボ弁の設計者は、長年に渡って高精度の機械加工を使用しているにもかかわらず、フィードバック機構のボールが早期に摩耗し、弁の性能を低下させていることに気がつきました。初期の設計の多くは、フィードバック機構にステンレスボールを使用していましたが、それが時間の経過とともに摩耗していたのです。1990年代からは、ステンレススチールの代わりにカーバイドとサファイアを使用し、ボールの寿命を延ばすことに成功しています。なお、サファイアはカーバイドよりも価格が大幅に高いものの、価格の高さに比例して性能が上がるということはありません。

ムーグの研究開発部門では、実際に、管理された環境下において、汚れのない作動油を使用し、温度を均一に保ちながら、スチール、カーバイド、サファイアのボールに対して10億サイクルの試験を実施して、摩耗特性を評価しました。その結果、ステンレススチールのボールには顕著な摩耗が見られましたが、カーバイドとサファイアには摩耗は見られませんでした。カーバイド素材は、サファイアと同等の高い性能を備え、コストが低いのに加えてフィードバック機構のワイヤにろう付けできるという利点があります。コスト管理の観点から、ボールの素材にはカーバイドが最適であることは明白です。

図2: ムーグのG761シリーズサーボ弁の断面図(ボール・イン・ホール設計)

手法2: ボール・イン・ホール設計

ムーグでは、業界標準として40年以上使用された「ボール・イン・スロット」方式の設計に代わり、1998年、カーバイドボールを使った「ボール・イン・ホール」テクノロジーを開発し、ムーグのサーボ弁の寿命と信頼性を最大化させました。この革新的な設計によって、ボールとスプールの接触位置が一部に集中するのを表面全体に渡って抑えることができ、スプールの摩耗を防止して、サーボ弁の全体的な寿命を劇的に向上させました。

ムーグの技術者が管理環境下で10億サイクルの試験を実施したところ、ボール・イン・スロット設計ではスプールスロット内に摩耗の痕跡が見られた一方で、ボール・イン・ホール設計の方には摩耗は見られませんでした。実際に、ボール・イン・スロット方式では、耐用寿命が10億サイクルとされている場合でも、1億サイクルで故障するものがあります。

また、さらに調査したところ、ボール・イン・スロット設計では、付着摩耗(スプールが1~4RPMで低速回転する際に発生します)によって大きな損傷が発生する一方、ボール・イン・ホール方式では、この現象による影響が非常に小さいことが判明しました。

現在、ムーグのメカニカルフィードバックを搭載したサーボ弁の95%以上は、産業用アプリケーションにおいて優れた性能と長寿命化を実現するボール・イン・ホール方式に切り替えられています。

図3: ボール・イン・スロット方式とボール・イン・ホール方式のボールスプールの摩耗の分布

手法3: ろう付けによる信頼性の向上

カーバイドボールとステンレススチール製のワイヤは、特殊なはんだ付け工程であるろう付け工程によって、232℃以上の温度で接合されます。ろう付けでは、ろう材を融点以上まで加熱して、緊密に組み合わされた複数の部品の間に毛細管現象を利用して入り込ませることにより、接合します。この重要な工程は、カーバイドにのみ適用でき、サファイアには適用できません。ろう付けによって、ボールは高温と作動油内の化学物質による劣化に耐えられるようになります。

ろう付けの代替手段として、フィードバック機構のボールとワイヤの接合にエポキシ樹脂が使われることもあります。サファイアはろう付けができないため、ステンレススチール製のワイヤとの接合に、この方法がよく使われます。しかし、サーボ弁の各種のアプリケーションでは何らかの要因によって、エポキシ樹脂とサファイアボールの組み合わせに予期外の故障が起きる場合があります。実際に試験を実施したところ、サファイアボールを使用したフィードバック機構では、ボールとワイヤを接合するエポキシ樹脂が、通常の作動範囲である-17.7~+71℃の範囲でも破損する場合があると明らかになりました。

油圧サーボ弁の将来予想

フィードバック機構におけるカーバイドボールの使用と、ボール・イン・ホール方式のスプールの設計、カーバイドボールとワイヤのろう付け接合は、サーボ弁の長寿命化と信頼性の確保に重要な役割を果たします。

これら3つの技術革新は、世界中の製造現場の非常に複雑な課題を解決するモーション制御ソリューションの開発を長年経験し、すぐれた評価を受けているムーグの技術チームが、研究開発能力を集中的に注ぎ込むことによって実現したものです。これらの技術革新は、ムーグが長年取り組んできた継続的改善と厳しい製品テストに加えて、こうしたブレークスルーについての各種資料を提供しお客様の理解と応用を促進した成果が反映されています。

今後のフィードバック機構の設計では、最新のマイクロプロセッサを搭載した弁によって高度なデジタル制御で大幅に性能を向上させ、進化を深めていきます。フィールドバスインターフェースの導入によって、機械の作動サイクル中にソフトウェアインターフェースを介して弁の制御機能を調節できるようになり、リモート診断も可能になります。また、弁の内部のデジタル制御アルゴリズムは、油圧システムの本質的な非線形性を相殺する目的で利用することができます。

その結果、油圧弁のスマート化がさらに進み、周波数応答性能と位置制御性能が向上して、多くの機械メーカーに大きなインパクトを与える高度な機能を提供できるようになります。

筆者について

Daniel Baranは、ムーグのメカニカルフィードバック式サーボ弁部門の技術サービスマネージャーで、油圧分野での業務経験は34年以上に及びます。ニューヨーク州立大学バッファロー校の機械工学の学士号と経営学修士号を保有しています。

ムーグのサーボ弁に関するホワイトペーパーは、ここからダウンロードできます。(英文)

 

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