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ジェームズ・ボンド、建物をベニスの運河に沈める
文書:Rebecca Gunn(英国セールスマーケティング担当)
最も大掛かりだった特撮シーンとして、ベニスの建物が水中に沈んでいくシーンが挙げられます。このシーンの撮影は、ムーグとそのパートナーであるEMP Designs社の協力のもとで行われました。ムーグは、ロンドン近郊のパインウッドスタジオの巨大水槽に80トンにも及ぶモーションベースを沈めるため、巨大な装置のスムーズかつ安全な操作を実現しました。
建物が水中に沈んでいくこのシーンは映画のラストシーンの中の一幕で、2種類のカメラアングルから撮影する必要がありました。ブルーのスクリーンを背景に、建物がベニスの運河に沈んでいく様子を外観から撮影するアングルと、沈んでいく建物の中にいる俳優を、内部から撮影するアングルです。きめ細かな演出を施した一連のスタントやアクションを撮影するため、このシステムは極めて高い精度で制御されなければならず、特殊効果の監督を務めたChris Corbould氏の指導のもと、開発が進められました。
アクチュエータの位置フィードバックは、パートナー企業より提供された多数のワイヤ駆動式エンコーダを用いました。映画の制御システムを開発した EMP Designsの Dan Stanton氏は、このように述べています。「このシステムの大きなセールスポイントは、すべてのハードウェアがデジタル化されたことにあります。油圧制御に関しては以前に他の企業に相談したことがありましたが、今回はさらに趣向を凝らせた特撮を実現したいと考えていました。私たちが望むもの、つまりデジタルバルブ技術を基盤とした油圧システムを提供してくれる企業は、ムーグだけでした。」
Stanton氏はこう続けます。「デジタル方式によって、よりきめ細かい制御が実現し、安全面の信頼性が大きく向上しました。たとえ接続が切れたり、制御が無効になったりしても、すぐに検出されるという安心感があります。また、デジタル方式を採用しているため、多くの動作は他の動作との同期によって実行されるので、制御性が飛躍的に向上しました。もう一つ重要な問題として、映画のセットには多くの無線周波数ノイズが存在しているのですが、ケーブルが長い場合、デジタル方式では回復力が格段に向上するので、制御ループやフィードバックループにおいて外部からの影響を低減することができたのです。」
このシーンの撮影では、CAN リンクにより6つのデジタル制御バルブをMSC コントローラに接続し、それぞれのディジタル制御バルブでシリンダを制御しました。バルブはペアで動作するため、3つの動作軸ができることになります。そして、CANopenリンクにより、デジタル制御バルブをBTF エンコーダに接続しました。BTF エンコーダは 0.025 mm 移動するたびに固有のデジタルコードを生成するので、シリンダ位置について必要となる正確なフィードバックが可能になりました。このデジタル制御バルブによって、動作 1 °ごとの閉ループ位置を遠隔制御できるようになり、その結果 MSC の処理負荷が軽減し、監視と同期を安全に行うことが可能になりました。また、MSC によって、CANバスに対するデジタル制御バルブのすべてのプロファイル生成が実現しました。「これは私たちにとって新しい試みでしたが、ムーグの M3000 のおかげで安定性と柔軟性に優れた制御構造が完成し、目指していたものを低コストで実現することができました。さらに、15型タッチスクリーン(HMI)を組み込むことができたため、MACS(ムーグ制御ソフトウェア)を使って、システムの全体像を完全に、そして明確に把握することができました。また、MACSのビジュアリゼーション機能により、読み取りエラーの原因を正確に特定することが可能となりました。」
Stanton氏のお話が続きます。「このソフトウェアを導入した理由の一つは、システムの自己診断機能を実現できたことです。この機能のおかげで、どんなずれや異常でも発見できるようなルーチンを構築することができました。非常停止ボタンを押すか否か、この決定を助けるコントローラを採用したのは初めてです。このソフトウェアを使用していれば、ずれが発生した場合、ずれの重大性を評価し、その数字に基づいて決定することができるため、安心して運用できるようになりました。また、コントローラに監視機能も組み込まれているので、万一何らかの問題が発生した場合も、安全な状態にすることができました。」
「このテクノロジーはすでに映画界の注目を広く集めており、このデジタルシステムを利用し、私たちが何を実現するのか、各制作会社が関心を示しています。M3000 システムは、電動アクチュエーションにも対応できる設計になっており柔軟性が高いため、小型 DC モータを使った小規模アニメーションなど、他の特殊効果にも応用することができるでしょう。もう一度言いますが、大きなメリットを生み出しているのはこのソフトウェアです。映画のコンセプトは日毎に変化しますので、柔軟性はきわめて重要であることも忘れてはなりません。デジタル方式はこの柔軟性の点においてもメリットをもたらしてくれるのです。」
著者について
Rebecca Gunnはイギリスムーグの一般産業向けセールスマーケティングを担当しています。2006年8月にムーグに入社し、それ以前には製造業向けの教育に携わっていました。RebeccaはCIM(Chartered Institute of Marketing)のマーケター資格を取得しています。
EMP Designs社について
EMP Designs社は、電気、空気圧、油圧と機械システム関連のプロジェクトに特化した設計コンサルタント会社です。サーボ駆動、油圧式のどちらにも対応し、ニードルの位置決めから80トンのプラットフォーム制御まで規模を問わずカバーする多軸閉ループ位置決めシステムや、産業向けのPLC制御装置、プログラマブルシーケンスコントローラ、電子プロジェクト/テストボード、暗号化無線通信/制御、光学電子ディスプレイなどに関し、設計コンサルティングを提供しています。
EMPは、映画業界においてカジノ・ロワイヤルのような人気映画の撮影班、模型製作スタッフ、特撮チーム向けに、ソリューションの設計を数多く行ってきました。自社に機械設備も有しており、高精度の各種部品の製造、プリント基板の設計・製造、構想実現のための様々なセットの設計と建造が可能です。
さらに詳しい情報については、ウェブサイトhttp://www.empdesigns.co.uk/をご覧いただくか、Dan Stanton氏にEメールにてお問い合わせください。





