ニュースレター
ジェットエンジンの未来に向けた新たな溶接プロセス
文書:Rebecca Gunn(英国セールスマーケティング担当)
英国ウェストミッドランド州のThompson Friction Welding(TFW)社は、英国ムーグの支援の下、世界最大の直動摩擦溶接機を開発しました。この溶接機E100は、ウェストミッドランド州へールズオーウェンにある同社の施設に設置されています。E100の開発に当たり直面した難題は、高周波という条件下で従来の摩擦溶接機を超える精度を実現しなければならないことでした。
最終製品には、次の技術仕様が求められました。
- 最大5秒間の溶接時間中、2 MWの電力により、280 barの圧力で4,500 l/min以上(=4,061 psiの圧力で1,188 USg/min以上)の流量を得ること
- 振動アクチュエータは、加工ツールとコンポーネントの重量を動かす能力があること
- 最大周波数100 Hz
- 最大動作距離5.0 mm(0.197 in.)
- 位置決め精度13μm (0.0006 in.)
- 圧接圧力100トン (220,000 lb)
TFW社は過去40年以上にわたり、さまざまな工業部品のために高度な製造プロセスを開発してきました。この間、同社は世界中に550を超える機械を供給し、回転式摩擦溶接機を中心に、最先端の摩擦溶接技術企業として確かな実績を積み重ねてきました。しかし、回転式の摩擦溶接が適さない部品もあるため、同社が数年前に事業拡大の一環として直動式摩擦溶接機の開発に乗り出したのは、自然な決定でした。
TFW社はまず、直動摩擦溶接を専業とする企業を買収し、次に、計画した機械を設計・製造できるチームを探しました。必要としたのは、サーボ油圧システムと流体静力学に関する専門技術でした。TFW社の最高経営責任者Alan Shilton氏によると、米国の直動摩擦溶接機メーカーなどさまざまな企業を調査・検討した結果、ムーグが最終候補として残ったのだそうです。
TFW社とムーグは互いによく似た企業理念を持っていたため、協力関係が成功することは最初から明らかでした。Shilton氏は次のように語っています。「ムーグはこの開発業務に適した会社でした。こちらが投げかけた疑問にも積極的に答えてくれ、質問しても避けようとする他社とは違いました。ムーグは非常にオープンで、自らが知っていることと知らないことを包み隠さず語ってくれました。こうした関係を出発点として私たちは協力を進め、2年半が経過した今、こうして機械を完成させることができました」。
E100には、高性能のサーボ油圧システムが必要でした。これはムーグが高度な技術を有する分野であり、次の製品を提供しました。
- フィールドバスインターフェース付きの複数のサーボ弁。溶接のため、大流量かつ高周波で動作できるもの
- ムーグの高応答閉ループ制御システム。溶接プロセスを制御するのに必要な高度なデジタル制御を提供
- 油圧パワーユニット
- 複数のアキュムレータ溶接に必要な非常に高いピークオイル流量を供給
- マニホールドと分配配管の設置、および複数のアクティブコンポーネントにオイルを供給する統合型サブシステム。
E100プロジェクトで、TFW社とムーグは以下の役割分担を行いました。
- TFW社 – 摩擦溶接プロセス、溶接機の機械・電気設計
- ドイツムーグ – フィールドバスインターフェース付き高性能デジタルサーボ弁(D674シリーズ)の開発
- 英国ムーグ
- コンサルティング、モーションシステムの機械設計、パワーシステムの設計、ダイナミックモデリングとアプリケーションのサイズ決定
- D674サーボ弁に対する200万サイクルの負荷テスト
- ムーグのモジュール式多軸プログラマブルモーション制御サーボドライブ(MSD)高速閉ループデュプレックスシステムの設計、プログラミングおよび開発
- MSDコントローラ(3ユニット)の統合
- サーボ油圧システムの構築と油圧パワーユニットの設置に関するプログラムの統括
- EtherCATサーボ弁用の高速閉ループ通信機能の開発。フィールドバスインターフェース(EtherCAT)、センサー、アナログおよびデジタルI/Oモジュールを含む。ムーグのリアルタイムコントローラとTFW社の統括コントロール/モニタリングシステム間の通信には、高速産業用フィールドバスシステムを使用。
ムーグのプロジェクト管理、開発、製造、設置、サポートサービスに関する経験とノウハウは、いずれもこのプロジェクトの成功に寄与しました。しかし何よりも、ムーグの摩擦溶接プロセスに関する実践的な経験、そして高性能サーボ油圧制御、高性能油圧アクチュエータ、大規模油圧パワープラントおよび分配システムの提供経験がなければ、TFW社からの信頼獲得やプロジェクトの成功はなかったでしょう。
プロジェクトの概略は以下のとおりです。
合計6,000 L/mの流量を供給する4つのサーボ弁で2本の油圧アクチュエータを制御して、圧接力を発生させます。システムは、高度な配管設計とマニホールドによって接続され、ムーグのサーボコントローラ(MSCコントローラ)3台と約100個のセンサーで制御します。溶接に必要な時間は5秒間で、2,000,000 Wの電力を消費します。溶接機は、5千万サイクル稼働するまで大がかりなメンテナンスを行う必要がありません。
Alan Shilton氏はこう述べています。「この機械の話をすると、単一のツールまたは機械を思い浮かべる人が多いのですが、実際は1台の機械というよりも、施設と呼ぶのが相応しいと思います。圧接力100トンで高さが2.5 mという仕様は、当社の従来機が70トンだったのと比べると巨大で、使われている構成機器や部品もそれだけ大きくなっています。もちろん、これは当初から計画していたことで、偶然そうなったわけではありません。私たちは計画に着手した時点で、完成すれば世界最大かつ最もフレキシブルな機械になるだろうと分かっていました。まもなく、チタン製品を対象に最初の溶接を開始する予定です。最初にテストプログラムを実施し、その後徐々に性能を試していく予定で、非常に小さなジョブから非常に大きなジョブ(圧接力100トン)まで実行します。最小の部品は800 mm2で、溶接面積が最も大きなものでは10,000 m2にもなります」。
「この開発プロジェクトの最終目的は、機械を完成させることです。プロジェクトの全プロセスを通じて、ムーグは私たちの求めに非常に良く応じてくれました。私たちは最初に基本ルールを作って幅広い基準を定め、機械に必要なすべてのツールと、達成すべき振幅と周波数を決めました。その最終的な結果をムーグに委ねたわけですが、期待通りの成果を出してくれました。協力関係はプロジェクトが進行するにつれて深まりました。ムーグのシニアクラスの担当者は私たちと連絡を密にしているため、当社の市場における活動内容を完全に把握しています。また、彼らは当社の市場戦略や達成すべき目標も理解しています。私たちはジェットエンジンの製造工程だけに携わっているわけではありません。これまでにも、直動摩擦溶接機を使った斬新なアイディアを数多く生み出してきました」。
TFW社が意欲的な取り組みを進める背景には、E100がジェットエンジンの製造方法に変化をもたらすという確信があります。「結果が現れるのは5~10年先になるでしょう。というのも、航空機産業では、例えば自動車産業などとは異なり、より長期的なスパンで物事を考える必要があるからです。当社はこれまでの経験からそれを学びました。新しい工程には成熟期間が必要であり、自らがその工程に慣れなければならないということです」。
同氏は、最後にこう締めくくりました。「機械が完成していないにもかかわらず、すでに2件の業務を受注しています。このことから、市場の受入準備が整っていることが分かります。これからが非常に楽しみです。E100で摩擦溶接の認識を覆し、英国のみならずグローバルな市場で優位なポジションを確立できればと願っています。ムーグとは最後まで協力関係を続けていきたいと考えています」。
Thompson Friction Welding(TFW)社について
TFW社は摩擦溶接ソリューションを専門に手掛ける企業です。40年以上にわたり、さまざまな工業部品のために高度な製造プロセスを開発してきました。同社が提供できる技術には、4~300トンの回転式摩擦溶接機、シングルエンド配置またはダブルエンド配置への対応、各種のローディングおよびアンローディング関連オプション、内部および外部のバリの除去、複雑な形状の部品用の溶接方向調節装置、市場トップを誇る原位置TIR測定、トレーサビリティ用部品番号スタンピング、ならびに自社設計の最先端ソフトウェア制御システムを含むあらゆる機械などがあります。
多くの企業から技術パートナーとして選定されてきた同社は、世界中に550台を超える機械を供給し、数々の革新的な摩擦溶接技術を送り出してきました。同社の詳細は以下のウェブサイトをご覧ください: www.thompson-friction-welding.co.uk
TFW社は2009年に、イギリスで最も権威ある賞Queen’s Award for Enterpriseを受賞しました。同社はまた、2008年にボーイング社のPerformance Excellence Awardも受賞しています。



