ニュースレター
製品開発を加速するムーグの運動/コンプライアンス(K&C)テストシステム
文書:Erik Kuiper(オランダムーグ、アプリケーションエンジニア)
2008年9月、ムーグは大手OEMメーカーの施設内に、同種のものとしては世界初のK&Cテストシステムを設置し、試運転を完了しました。K&Cは“Kinematics & Compliance”(運動とコンプライアンス)の略であり、同システムは、自動車用サスペンションの運動およびコンプライアンス特性を測定するのに使用します。自動車用サスペンションの開発では、CADおよびCAEツールを多用することにより、実物のプロトタイプを製作する回数を削減する取り組みが行われています。開発が進むと、シャーシの開発プロセスを補完する重要な工程として、K&Cテストシステムを用いた設計検証が行われます。また、K&Cテストシステムはサスペンションのチューニングにも使われます。サスペンションの構成部品の特性が変更された場合、変更の影響をK&Cテストシステムによって簡単に評価することができます。こうしたことから、K&Cテストシステムは開発工程に欠かせない万能ツールとなっています。ムーグは、高性能の電気式K&Cテストシステムの開発で業界をリードし、K&C関連規格の策定のためのISOサブコミッティー(ISO/TC22/SC9)の作業部会においても積極的な役割を果たしています。
K&Cテストとは?
自動車用サスペンションは、リンク、ジョイント、ブッシング(弾性ベアリング)から構成される複雑な機械装置です。ホイールには、基本的に2つの自由度があります。路面の障害物による衝撃を緩和する縦方向の自由度と、進行方向を変更するためのステアリングの自由度です。それ以外の動きは発生しないように拘束されます。サスペンションの運動特性は、こうした自由度と拘束によって定義されます。一方、サスペンション自体は弾性要素から構成されているため、外部からの力とモーメントの影響によって変形します。これをサスペンションのコンプライアンス特性と呼びます。
K&C測定の基本的な考え方は、個々の自由度方向の運動特性とコンプライアンス特性を分離することです。例えば、垂直方向の動作試験において、ホイールはサスペンションのストローク長の端から端までの範囲を、垂直に動作します。車両の長手方向および横断方向の力とアライニング(ステアリング)トルクは、ゼロになるように制御されます。その結果、サスペンション内には反力が蓄積せず、長手方向、横断方向、ステアリング方向の運動を拘束した状態での測定を実施することができます。K&Cテストシステムは、各自由度を位置モードまたは力モードで制御することができます。
測定は、車両を地面に固定し、動かないようにして行います。各ホイールは、6方向に移動または回転する独立した6自由度のプラットフォームによって支持されます。この状態で、ホイールの接触力、モーメント、プラットフォームの運動、ホイールの運動を測定します。ステアリングホイールにはモーターを接続し、ステアリング操作を行ってステアリングトルクを測定します。
コンポーネント
K&Cテストシステムは、以下のコンポーネントから構成されます。
ヘキサポッド
プラットフォームはヘキサポッド式(スチュアート式)です。プラットフォームには6つのアクチュエータが搭載され、6方向の動作をすることができます。プラットフォームはホイールを個別に動かすことができますが、K&Cリグではそれぞれの動きが連動されるため、ホイールはすべて同時に動きます。
ヘキサポッドテクノロジーと電動アクチュエーションを組み合わせることで、設置が簡単で占有スペースが少なく、メンテナンスコストも抑えたシステムを実現しています。
トラック幅の調節
ヘキサポッドは、床に設置したフレーム上に搭載されます。フレームは、ヘキサポッドの横方向の位置を調節できる設計となっているため、試験対象の車両のトラック幅に合わせて位置を調節できます。
ロードセル
個々のヘキサポッドプラットフォームには6軸ロードセルが1つずつ搭載されており、ホイールに加わる力とモーメントを測定します。
光学位置センサーシステム
システムでは2台のカメラを使用し、それぞれが車両の側面と、ホイールに取り付けられた光学ターゲットに焦点を合わせます。光学ターゲットの位置をカメラで測定することにより、プラットフォームとホイールの動きを検出します。2台のカメラは同じ基準系内で接続されており、非常に高精度の測定を実施することができます。
制御システム
制御システムは、データ取得システムを搭載したリアルタイムコンピュータで構成されます。制御システムは、測定した力とモーメントおよびプラットフォームの動きをフィードバック情報として利用することにより、プラットフォームとホイールをコマンド位置に合わせる制御を行います。各制御チャンネルは、位置モードまたは力モードで制御できます。コマンド位置はヘキサポッドのリアルタイム運動モデルによってアクチュエータ位置に変換されます。制御システムはまた、すべてのデータ取得および記録を行います。
アプリケーションソフトウェア
アプリケーションソフトウェアは、オペレータのコンピュータ上で実行され、すべてのテストを管理します。テストが定義されると、適切なコマンドが制御システムに送信され、テストが実行されます。測定データは、制御システムから回収され、データベース内に保存されます。テストの実行状態はオンラインでモニタリングされ、測定レポートが自動的に生成されます。テスト用テンプレートを使用することによって、標準テストスイートを定義できるだけでなく、個別のテストも簡単に作成できます。アプリケーションは、テスト実行中にオンラインでオペレータが追加データを入力し、確認を求める対話型の処理が可能です。この機能は、完全にカスタマイズすることもできます。
仕様
電動アクチュエータ
K&Cテストシステムは、電動アクチュエーション方式を採用しています。このため、油圧アクチュエーションシステムと比べて、装置がシンプルになっています。運転中の騒音はほとんどなく、メンテナンスもごくわずかで済みます。
単一閉ループのコントローラ設定
制御システムは、あらゆる種類の車両に対応できるパラメータセットを使用しています。手動操作によるループの調節は必要ありません。ユーザーにとって非常に使いやすいシステムとなっています。
光学位置センサー
位置センサーは、ホイールにマグネットで取り付けた光学ターゲットと、各ヘキサポッドの横に設置した2台のカメラを使用します。自動較正プロセスを使って、ターゲットのホイールに対する位置精度特性を特定し、ソフトウェア内で自動的にこれを考慮します。センサーと車両が機械的に接触していないので、センサーは位置の測定結果に影響しません。
車両の自動セットアップ
車両がシステムに搭載されると、K&Cテストシステムは車両のリグに対する位置と姿勢を測定し、実際の車両の位置に基づいて自動的な補正を行います。このセットアップはわずか2分程度で完了します。車両の搭載を含め、テスト準備全体にかかる時間は約20分です。
完全にカスタマイズ可能なアプリケーションソフトウェア
アプリケーションソフトウェアには、標準的な運動およびコンプライアンス測定のテンプレートが付属しています。テンプレートはユーザーが作成することもできます。このため、ユーザーインターフェース、テスト手順、データ取得は、非常に柔軟に運用できます。
国際標準規格への参加
2009年1月、国際標準化機構(ISO)のサブコミッティーISO/TC22/SC9(車両の運動力学と路面保持性能)は、K&C関連規格の作業部会を新たに立ち上げることを決定しました。この作業部会は、自動車業界の国際的なエキスパートによって構成されています。作業部会の目的は、テストシステムの種類および測定原理にかかわらず、K&C測定プロセスおよび分析作業を標準化することです。ムーグはこの作業部会に積極的に関与しており、本稿の筆者は作業部会の議長を務めています。
筆者について
Erik Kuiperはオランダムーグのアプリケーションエンジニアです。デルフト工科大学で機械工学の修士号を取得し、自動車業界で8年以上の勤務経験があります。



