ニュースレター
フルードパワーの将来:油圧機器エンジニアが直面する6つの課題
文書: Dave Geiger(米ムーグ、一般産業部門、油圧システム技術マネージャー)
世界的に厳しい経済状況が続く中、日々の仕事に追われるエンジニアに、油圧モーション制御のトレンドについて心配する時間はほとんどありません。有能なエンジニアは、自分が直面しているのと似た問題に取り組む他のエンジニアから学べることが多いことをよく認識しています。業界団体は、機械メーカーが直面する課題や困難に最前線で取り組む関係者どうしを結びつける貴重な役割を担っています。米国フルードパワー工業会(NFPA:National Fluid Power Association)は、しばらく前にフルードパワー業界のテクノロジー・ロードマップを策定するためのチームを発足させました。ムーグは、世界最高水準の技術が要求されるさまざまな業界の企業と共同作業を展開する中で、こうしたトレンドに合致したソリューション開発を幅広く経験してきました。油圧・電動ハイブリッドシステムは、産業アプリケーションへの応用が広がりつつある技術分野であり、ムーグでは、NFPAが指摘する困難な課題のすべてに対応できる有望なソリューションであると考えています。
昨年5月、NFPAは会員に呼びかけ、業界が直面する6つの課題を解決するために、今後10年間に渡って進むべきテクノロジー・ロードマップを作成することにしました。その動機の1つには、発電や海底掘削向けのアプリケーションといったフルードパワー業界のビジネスの中核をなす事業領域に電気機械ソリューションが進出してきていることに対処する必要がある、という認識があります。NFPAと会員がリストアップしたフルードパワー業界の6つの課題を、図1に示します。
フルードパワー業界の6つの課題
- エネルギー効率の向上
- 信頼性の向上
- スマートコンポーネント、スマートシステムの構築
- サイズと重量の削減
- 環境負荷の低減
- エネルギーの貯蔵および再配分機能の向上ならびに適用
資料提供: NFPAウェブサイト(2009年12月)
こちら→ www.nfpa.com/ourindustry/technology_roadmap.asp
新しい油圧機器やシステムを設計する際に、これらの課題に関連して考慮できるポイントは、数多く存在します。例えば信頼性の向上は、より小型化し、コンポーネントの数を大幅に減らした独立型の油圧システムを開発することで実現できます。サイズと重量は、特定のアプリケーションに合わせて最適化したソリューションを設計することによって減らすことができます。エネルギー効率は、動作の必要なときにだけ回転するモーターを設計し、ユーザーがより自由に操作できるスマートコンポーネントを導入することによって向上させられます。
6つの重要課題に対する実現可能なアプローチ
油圧分野のソリューションおよび製品の設計と製造で業界をリードするムーグは、NFPAの会員として何十年も活動してきました。私は、このテーマについて興味深い視点を提供できるムーグの代表として、NFPAの活動に参加しました。ムーグは油圧ソリューションと電動ソリューションの両方を設計する数少ない企業の1つで、特定の技術分野に偏らない公平な立場を取っていることが知られています。実際にムーグでは、電動システムの開発チームと油圧システムの開発チームが隣り合ったブースで仕事をしています。両分野の開発チームは日々、製鋼所、航空機用試験、風車ピッチ制御などといった幅広い分野のアプリケーションにおける油圧システムと電動ソリューションの長所と短所に対する理解を深めています。
これらの各トレンドについて、ムーグのエンジニアはさまざまな知見を提供することができます。例えば、1つ目の課題として挙げられているエネルギー効率に関しては、デジタル式ラジアルピストンポンプ「RKP-II」を導入しているプラスチック射出成形機メーカーが高い効率を達成しています。最大級の出力が要求され、休みなく運転する中で高い信頼性が要求される油圧アプリケーションとしては、最先端の自動車部品のプロトタイプの構造試験を実施する自動車用試験設備が挙げられます。ムーグの新製品の1つに、この市場分野向けに開発された堅牢で小型のサーボアクチュエータがありますが、この製品は長い耐用寿命を支えるコンパクトかつ内蔵型の配管および特殊なシールロッドの技術によって、2番目の課題に確実に応えます。ムーグはこの市場に向けて、自動車の研究開発試験用の6脚6自由度型設計の加振テーブルも開発しました。この試験装置は、設置床面積を大幅に縮小して重量を軽量化するとともに、従来のソリューションより高い周波数での動作を実現します。
3番目の課題に挙げられているスマートコンポーネントは、ムーグは大規模な研究開発プロジェクトを推進し、リソースを投入している分野です。ムーグでは、各種のデジタルサーボ弁とデジタル式ラジアルピストンポンプを提供しており、ユーザーが高機能の動作設定ソフトウェアの性能最適化と診断機能を利用して簡単に設定作業を行える環境を実現しています。さらにムーグには、生物分解性フルードやクリーンルームでの医薬品製造にも適した密閉型油圧システムなどを数多く提供してきた実績もあります(課題5に対応)。


写真:ムーグD637およびD670サーボ弁、デジタル式ラジアルピストンポンプRKP-II
広がる油圧・電動ハイブリッドアクチュエーションの可能性
油圧機器業界のみならず、過酷なアプリケーションに対応できる高性能なシステムを求める顧客は、リストアップされた6つの課題の解決に役立つ技術として、油圧・電動ハイブリッドアクチュエーション(EHA)に期待を寄せています。EHAは、電気(サ―ボモーターなど)と油圧(ポンプ、バルブなど)を組み合わせた独立型のユニットを使い、共通のコントローラとソフトウェアシステムによって動作させることから、「ワイヤー(導線)駆動」のシステムと呼ばれる場合もあります。独立型のパッケージには、油圧配管が不要という利点があります。
ムーグは、1990年以来、ロッキード・マーチン社のF-35 Lightning IIなどの次世代の軍用および民間機のフライトコントロールにEHAを導入して多くの経験を重ね、エアバス社のA400MとA350 XWBへの導入実績もあります。過去20年間、ムーグでは一重および二重冗長性アクチュエータ、二重および三重冗長性アクチュエータコントローラ、ならびに高度に統合化したオンボード型の電源および制御回路を含む各種システムの開発を通して、EHAテクノロジーの革新と成熟に向けた取り組みを続けてきました。
EHAの産業用アプリケーションへの応用は限られていますが、ムーグでは、高出力の実現とエネルギー削減、環境対策、配管の廃止に必要な油圧システムの開発を、機械メーカーと協力しながら進めています。また、EHAは、風力タービンのブレードピッチ制御など、高度なフェールセーフシステムや冗長性システムを必要とする高出力の電動アプリケーションの選択肢ともなります。

写真:ムーグの航空機向けEHAシステム
風車ピッチ制御の例
従来型の油圧システムに代わるEHAの導入例として、風車ブレードピッチ制御システムのユーザーが油圧式ピッチ制御システムをEHAに置き換えた場合に得られる効果について説明します。以下の各項目の番号は、図1に示した6つの課題の番号に対応しています。
- エネルギー効率の向上:風車ブレードの傾斜(ピッチ)角度を変更する必要があるときにだけピッチ制御システムのモーターを回転させることができます。
- 信頼性の向上:EHAの導入によって、風車メーカーは回転流体スリップリングと付属のホースを電気光学式のスリップリングアセンブリーに交換でき、回転接続部を介した電力と信号の伝達が可能になります。
- スマートシステム:風車ブレードの角度調節を行う独立型のEHAアクチュエータは、モーション制御と診断機能が内部で統合された構造となっています。
- サイズと重量の削減:風車メーカーはEHAを活用することで、通常地上から離れた高い位置にある風車ナセル内部の大型油圧パワーユニット(HPU)をなくすことができ、重量を最大40%まで削減できます。
- 環境負荷を低減:風車のナセル内部の回転流体スリップリングを廃止することによって、スリップリング、ホース、継手などの漏れポイントをなくすことができます。
- エネルギーの蓄積および再利用性能の向上:ブレードピッチ制御アクチュエータとともに風車ハブ内部に搭載されている非常用ピッチブレーキアキュムレータが、電源故障時に非常用のフェールセーフ型ピッチ調節機能を提供します。
結論
NFPAのロードマップは、フルードパワー技術を進歩させるとともに、日々の課題に取り組むエンジニアを支援する新たな選択肢について議論を活発化させる目的で考案されています。本稿では、油圧工学のこうしたトレンドを高性能アプリケーションに生かす実用的なアイディアを紹介しました。ここに示したように、今後が期待されるEHAという選択肢を含め、さまざまな産業分野特有の問題を解決できる可能性を秘めた油圧技術の選択肢は極めて多岐にわたっています。最も重要なことは、ムーグは個々のアプリケーションのニーズに油圧ソリューションと電動ソリューションのどちらが適しているかを評価するノウハウを持っており、なおかつ最高クラスの製品またはシステムを応用して高性能の機械アプリケーションのニーズに応えられるということです。
米国フルードパワー工業会(NFPA:National Fluid Power Association)は、1953年に設立された非営利業界団体です。300を超える会員から構成されており、フルードパワーシステムと油圧機器のメーカー、フルードパワー関連の流通業者、フルードパワー業界に対するサプライヤー、教育者、研究者などが所属しています。NFPAのミッションは、フルードパワー技術の流通過程に関わるすべての関係者が協力して、フルードパワーテクノロジーの振興と業界の強化、そしてメンバーの成功をサポートするコミュニティを提供することです。詳細については、www.nfpa.comをご覧ください。
著者について
Dave Geiger(米ムーグ、一般産業部門、油圧システム技術マネージャー)(NFPA技術ロードマップ策定委員)



