ニュースレター
ムーグの6自由度試験システムが危険物の海上輸送の安全確保に貢献
中国船舶及海洋工程設計研究院(MARIC)がムーグの6自由度試験システムを使ってLNG(液化天然ガス)タンカーの構造研究を実施
天然ガスは、他の化石燃料と比べて硫黄分の含有量が極めて少ないため、最もクリーンな化石燃料の1つであると考えられています。現在、天然ガスは世界の燃料消費の25%を占め、この比率は徐々に増加しています。調理用ガスコンロの燃料が天然ガスであるかどうかは、澄んだ青色の炎によって判別することができます。ただし、その天然ガスが、場合によってはLNGタンカーで地球を半周して運ばれてきていることは、あまり知られていないかもしれません。
海底の油田やガス田から掘削される天然ガスは、ほとんどの場合、そのまま輸送して都市の供給網に流すことはできません。天然ガスの生産地から消費地への輸送で重要な役割を果たしているのが、LNGタンカーです。天然ガスを輸送するには、-162℃の超低温まで冷却し、元のガスと比べて600分の1の体積まで圧縮する必要があります。天然ガスは、液化天然ガス(LNG)の状態にすることで、はじめて大量の輸送と保管が可能になります。
LNGタンカーの巨大なタンク内は、数週間から数か月に及ぶ海上輸送の間、超低温を維持する必要があります。容量が125,000m3の一般的なタンクは、大容量、超低温の仕様を満たさなければならず、製造時には困難が伴います。LNGを格納するInvarステンレス合金の層は0.7~1.5mmという薄い溶接構造でありながら、-162℃の条件下で信頼性を維持し、タンカーの寿命である40年間に渡って漏れを起こさないなど、適切な要件を満たす必要があります。

天然ガスを輸送するLNGタンカー
中国船舶及海洋工程設計研究院の構造研究所長を務めるSam Fan博士は、造船業界を支援するため、LNGタンクの構造強度とその特性を調査するという困難な課題に取り組みました。Fan博士は、タンカーの動きを再現して、スロッシングがLNGタンクの縮尺モデルの構造に及ぼす影響を調査するため、LNGタンクのスロッシング試験を実施するシステムを用意する必要に迫られました。
ただし、この試験に利用できる現実的なソリューションは、簡単には見つかりませんでした。そこでFan博士は、2009年の後半、ムーグに相談を持ちかけました。中国ムーグのシミュレーション・セールス・マネージャーを務めるYuan Baiは、ただちにMARICを訪問して、ムーグの4.5トン対応6自由度モーションベースを紹介しました。

ムーグ MB-EP-6DOF/36/4500kg
ムーグの標準型MB-EP-6DOF/36/4500kgの仕様
| 自由度 | 最大許容偏差 | 速度 | 加速度 |
| サージ | -0.69/+0.85 m | ±0.9 m/s | ±8 m/s2 |
| スウェイ | ±0.69 m | ±0.9 m/s | ±8 m/s2 |
| ヒーブ | ±0.59 m | ±0.7 m/s | ±10 m/s2 |
| ロール | ± 23.9 deg | ±33 deg/s | > 150 deg/s2 |
| ピッチ | ± 23.9 deg | ±33 deg/s | > 150 deg/s2 |
| ヨー | ± 23.9 deg | ±33 deg/s | > 150 deg/s2 |
アプリケーションの要件と仕様から、モーションシステム改造の必要性は明らかでした。
MARICのアプリケーションの主な仕様
| 主要仕様 | 項目 | 単位 | 指定許容値 | Moogの標準型MB-EP-6DOF/36/4500KG |
| 速さ | 最大サージ | m/s | ±-1.3 | ±0.9 |
| 最大スウェイ | m/s | ±-1.3 | ±0.9 | |
| 最大ヒーブ | m/s | ±-1.0 | ±0.7 | |
| 加速度 | 最大サージ | m/s2 | ±8.8 | ±8.0 |
| 最大スウェイ | m/s2 | ±8.5 | ±8.0 | |
| 最大ヒーブ | m/s2 | ±15 | ±10.0 | |
| 最大ロール | deg/s2 | ±219 | ±150 | |
| 最大ピッチ | deg/s2 | ±245 | ±150 | |
| 最大ヨー | deg/s2 | ±420 | ±150 |
このソリューションでは、以下に挙げる主要な課題に対応する必要がありました。
- スロッシング試験において、サージおよびスウェイ方向への1.3m/sの高速動作が必要
- スロッシング試験において、ヒーブ方向への15m/s2の加速度と、ロール/ピッチ/ヨーの各回転動作にも大きな加速度が必要
- 試験装置のモーションシステムにおいて、GUIと、実際のタンカーの測定データに基づいて軌跡、速度、加速度を再現できる試験ソフトウェアが必要
- 空気圧サポートシステムに使用する圧力容器が中国の規制に適合すること
中国ムーグのチームは、この特殊なモーションシステムの要件について、オランダのニューフェネップにあるムーグのR&Dセンターと直ちに協議しました。試験システムのエンジニアリング・マネージャーを務めるOlivier Voinotは、分析の結果、ムーグのモーションベースに対して次のようなシステム面の強化と改造を行うことで性能を向上できると判断しました。
- 高圧電源トランスを導入してACサーボドライブ内のDCバス電圧を600Vに高め、速度と加速度を必要なレベルにまで上げる
- 標準のプラスチックブッシングをスチール製に変更することで、上部ジョイント部を強化し、システムの剛性を高めて高速および高加速度時の安定性を向上させる
- ムーグのレプリケーション実行ソフトウェアを組み込んでモーションベースと通信させることにより、周期波形(正弦波など)の発生から、LNGタンカーの実測データに基づく6自由度スペクトルデータの再現までのスロッシング試験を実行できるオールインワンの試験環境を提供する
- 中国ムーグが中国の圧力容器の規格を満たすGB-150圧力容器をシステムに組み込む
オランダおよび中国ムーグの作業チームと、Fan博士のチームによる協力体制は、プロジェクトの期間全体を通して維持されました。オランダおよび中国ムーグでプロジェクトマネージャーを務めるKarlijne van LeibergenとJason Guanは、システムの設計と製作を仕様通りに行い、Fan博士のスロッシング試験の要件を満たすよう、緊密に協力してプロジェクトを進めました。システムは2010年7月に納入され、現地受入試験(SAT)は2010年7月4日に完了しました。
このプロジェクトが成功した要因としては、
- ムーグ社内に加え、顧客も巻き込んだシームレスなチームワーク
- ムーグのスタッフに共通する柔軟性とカスタマイズに対する積極的な姿勢、ならびにチャレンジ精神。また、ムーグの両事業所が単に要件を満たすだけでなく、それ以上のソリューションを実現し、より大きなメリットを顧客に提供したこと
- ローカリゼーションの取り組みにより、システムの性能要件を満たしたうえで、世界各国の異なる安全規則に確実に適合するようにしていること
などが挙げられます。
Fan博士は次のように述べています。「このスロッシング試験のモーションシステムは、強力なシミュレーション性能を備え、私たちがLNGタンクの構造強度と特性について理解を深めるのに大きく役立っています。この研究により、私たちは中国国内におけるLNGタンカーの建造プロジェクトに強固な基盤をもたらすことができます。」
このスロッシング試験システムの成功を受けて、MARICでは、ムーグとの協力関係をさらに深めています。現在は2台目のモーションシステムの納入準備が進められており、私たちは、今後のMARICとのエキサイティングなプロジェクトを楽しみにしています。私たちは今、「成功は成功のもと」であると信じています。
著者について
著者: Jason Yang、テストアプリケーション・マネージャー
中国ムーグ
Jasonは、2008年からテストアプリケーション・マネージャーを務めています。プラスチック製造機械のアプリケーション・エンジニアとして、2000年にシンガポールムーグに入社しました。Jasonは、2002年から2004年には米国ムーグのエンジニアリング部門で、2004年から2006年には中国の電気機械ビジネス開発部門で、それぞれ、電気機械アクチュエーションの開発に深く関わってきました。Jasonはまた、2006年から2008年の間、中国で自動車のセールス・マネージャーも務めました。Jasonは、中国国内で電子工学および応用制御理論の修士号を取得し、米国セント・ボナヴェンチャー大学で経営学修士(MBA)を取得しています。Jasonは、ムーグで10年以上にわたってアプリケーション・エンジニアリングの仕事を続けています。



