第33号 ムーグのアクチェータ修繕サービスで明かりを灯し続ける発電業界 2014年8月

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この記事のポイント:

  • コンバインドサイクルガスタービン発電所では、設備の更新および補修時に各種のアクチュエータとサーボ弁を新品同様の性能に戻す必要があります。
  • モーション制御は、安定した電力の供給と効率的な運転に欠かせない重要な役割を果たします。
  • タービンの稼働率を高いレベルに保つためには、部品交換時に適切な修理サービスを実施することが重要です。

現在、世界で最も発電効率の高い発電プラントの多くは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルガスタービン発電プラント(CCGT)です。ガスタービンと蒸気タービンのモーション制御は、機械の性能と安全を担保し、世界中の家庭に確実に電力を届ける重要な役割を担っているため、特に厳しい条件を満たす必要があります。タービン装置内では、発電効率の向上と汚染物質の削減のため、頑丈なインレットガイドベーンアクチュエータと燃料ガス制御弁を使用して、変動する負荷条件と周辺環境の下で空燃比を適切に調整する必要があります。安全面では、火災のリスクを減らして保険料を抑えるために、漏れを防止することも重要です。

世界では、多くの国で電力が不足し、発電所は休みなく運転し続けることが求められています。停電は市民生活に不便を強いるだけでなく、国の経済に悪影響を及ぼす可能性もあります。地域によっては、老朽化した発電所(特に石炭火力発電所)の閉鎖に伴い、高いエネルギー効率で最大出力を継続的に供給できるプラントを維持することが非常に重要になっています。現在の環境では、発電所1つが停止するだけで、既存の送電網に多くの負担がかかります。また、発電所の出力が規定の範囲を超えたり下回ったりすると、監督官庁から制裁金を課せられる国もあります。こうしたことから、すべての発電所は、稼働率を最大化して供給電力を増やすことを課題としており、タービンをピーク性能で安定的に継続運転する方法を模索しています。


複合サイクルガスタービン発電プラントでモーション制御が重要な理由

タービンシステム内では、アクチュエータ上の燃料ガス制御弁が、非常に複雑な制御システムと、プラントの機械部分との間の主要なインターフェースの役割を果たします。安全面では、タービンの損傷を防止するため、非常停止の際にメインバルブアクチュエータを短時間で素早く閉じることが重要です。インレット部への過剰な水蒸気や燃料の供給もタービンに悪影響を及ぼし、発電プラントに深刻なダメージを与えます。

モーション制御システムの影響は、次の範囲に及びます。

  • タービンの出力電力、ひいては発電プラントの収益性。
  • エネルギー効率。発電プラントの運転コストの80%は燃料が占めるため、エネルギー効率は利益率に直接影響します。
  • 有害物質の排出レベル。調整不良の装置を使うと許容排出レベルを超える可能性があり、コストと法令順守の両面に影響が及びます。
  • 稼働率と安定的電力供給。これらは、発電量の変動に伴う罰金の適用を回避するために重要です。

重要なシステムの運転の継続

ムーグのガスタービン用アクチュエータ図1: ムーグのガスタービン用アクチュエータ

ムーグは、大多数のガスおよび蒸気タービンメーカーにアクチュエータとサーボ弁を提供し、新型タービンの設計担当者と協同して、仕様の定義や、場合によってはタービンの設計性能の策定などにも関わっています。ムーグの燃料調節アクチュエータと燃料ガス制御サーボ弁は、迅速な閉止動作、最先端のフェールセーフ機能、ならびに高い応答性で知られています。また、すべてのハードウェアは、高い効率を達成するために、送電網から要求される負荷に従って正確に調節できます。ムーグのアクチュエータと弁の性能は、重要な発電プラントの運転に対して、燃料の節約や公害の防止、規定量の電力供給など、さまざまなメリットをもたらします。

発電プラントは、厳しい運転環境下で、重要なモーション制御システムを無停止で連続運転しながら、なおかつ装置を新品時と同じ高いレベルで動作させることを課題としています。ムーグでは、グローバルサポート体制に基づく修理・保守サービスに加えて、発電プラントの停電を最小限に抑え、性能を最適化する専門のサービスを提供しています。停電時の緊急サービスから、計画停止による予防メンテナンスプログラム、専用の改修キット、交換プログラムに至るまで、プラントの効率的な運転と出力の最大化に役立つさまざまなオプションを用意しています。

ムーグの蒸気タービン用アクチュエータ図2: ムーグの蒸気タービン用アクチュエータ

ムーグの発電機アクチュエータ保守専門サービスは、評価、修理、テストのすべてを含みます。このサービスは、現地国内のサービスセンターと発電所の現場で連携して進められ、単なる修理だけではない包括的なパッケージとして提供されます。ムーグは、装置の設計と製造に携わるサプライヤーとして、実際の用途でモーション制御に求められる要件を理解し、タービンメーカーと協同して年間3万サイクルの動作に耐えうる製品を設計してきました。3万サイクルの間に、アクチュエータには百万回もの微小な動きが発生するため、時間とともに摩耗が加速する可能性があります。ムーグでは、グローバルサポート体制に基づくサーボ弁の修理も実施しています。これには、燃料ガス制御弁の初期評価テストから高度な修理まで、異なるレベルの修理メニューが用意されています。高度な修理では、完全な分解修理や超音波洗浄、全体交換、トルクモータの修理、ブッシングおよびスプールアセンブリの交換等を実施します。アクチュエータ修理の場合と同様、専門知識を備えたムーグの技術者が、世界各地のサービス拠点で新品時と同一の部品を使用して、短時間で質の高い修理を実施します。

ムーグでは、修理後の弁とアクチュエータに新品時と同様かそれ以上の性能を付与するため、製品仕様や設計図面等の参照用資料の整備から、サービス要員のトレーニング(大半は日本やその他各国のタービンメーカーでの実習)に至るまで、さまざまな取り組みを行っています。修理の際には、適用可能な製品更新を実施して、従来以上の性能を実現するようにしています。これには、例えば当社独自の表面仕上処理を施したロッドやシールを対応モデルに組み入れて耐用寿命を延ばすなどの対策が含まれます。

アクチュエータの分解準備をするムーグの技術者

図3: アクチュエータの分解準備をするムーグの技術者

以下では、英国および米国で、多大なコストがかかる停電を回避しながら、CCGT発電プラントのタービンモーション制御の性能を新品と同様またはそれ以上の状態に戻したムーグの修理の2つの事例を紹介します。


ケーススタディ: グレートヤーマス発電所

背景

グレートヤーマス発電所図4: グレートヤーマス発電所

RWE Npower Plc社が所有し運転するグレートヤーマス発電所は、イギリス東海岸にあるコンバインドサイクルガスタービン(CCGT)発電所です。この発電所では、2012年に、米国ムーグ製のサーボアクチュエータで制御される主要な低圧蒸気制御弁から大きな騒音が発生するという問題が発生しました。原因としては、まずベアリングに疑いの目が向けられました。

発電所の技術者は、ベアリングの交換作業についてムーグに相談を持ちかけました。ムーグの技術者は、聞き取った機械の不具合事象から、ベアリング以外にも問題があるかもしれないと感じました。そして、この弁が発電機の重要な機能を担っていることから、修理して新品同様の性能を確実に発揮できる状態に戻したいと考えました。

課題

更新されたプロセス弁の試験

図5: 更新されたプロセス弁の試験

グレートヤーマスに提出されたムーグのサービスレポート図6: グレートヤーマスに提出されたムーグのサービスレポート

発電所の技術者は、アクチュエータの詳しい状態をムーグのテュークスベリー(英国)の技術サービス担当者に伝えました。ムーグは、提供するサービスに含まれる内容の全体を説明した要約資料を作成し、提出しました。資料には、音声や映像コンテンツによる説明も含めて、有用な情報が盛り込まれており、これを見た発電所の技術者は、ムーグのサービスを利用することにしました。

最初の「受領時」テストで、ムーグの技術者は、悪い予感が的中したのがわかりました。ベアリング以外にも、問題が発生していたのです。修理項目は当初の想定より増え、交換対象の部品には、ピストンとベアリングのアセンブリ、クランクアーム、ブッシュ/ベアリング、接続ピン、ならびにすべてのソフトシールが含まれました。

ムーグは、これらすべての構成部品にかなりの摩耗があり、騒音の原因となっていたことを確認しました。また、油圧作動油もかなり漏れていたことが分かりました。アクチュエータの受領時性能テストは、多くの部分がビデオ撮影され、修理料金およびスケジュールの変更依頼とともに顧客に提出されました。なお、この修理を進める間にも、現場の発電プラントは停止せず運転を続けなければなりませんでした。

ムーグのソリューション

ムーグは、テュークスベリーのサービス施設で特別な緊急対応のアクチュエータサービスを実施するよう提案しました。その内容には、包括的な受領時テスト、完全な分解調査、全部品の点検、不具合のある部品の交換、元の仕様を満たす状態への再組立、ならびに仕様を満たすかどうかのテストが含まれていました。

この特別のサービスを実施するには、いくつかの課題がありました。交換部品を米国のムーグから取り寄せる必要があり、なおかつ、発電所の計画停止の時間内でサービスを完了させなければなりませんでした。幸い、部品はムーグのグローバルネットワークを通して即座に発送され、翌日に到着しました。サービスエンジニアは、新品の部品を使ってアクチュエータを組み直し、元の仕様を満たしているかテストして、すべての問題点が修正されたことを確認しました。

修理作業は、注文が確定した11月8日に始まって10日間で完了し、11月18日には、修理済みのユニットが発電所向けに発送されました。

結果

計画停止に合わせてムーグのMatt Keen(システムおよびプロジェクトマネージャ)は同発電所を訪問し、今回設置された各種の装置を点検し、その他の保守関連の課題を指摘しました。同発電所の技術者はこれを高く評価し、他のアクチュエータと、それに関連するプロセス弁の追加の予防メンテナンスもムーグに依頼しています。


ケーススタディ: ユニオン発電所

背景

Entegra社ユニオン発電所図7: Entegra社ユニオン発電所(Entegra社ユニオン発電所による提供)

アーカンソー州エルドラドにあるEntegra社ユニオン発電所は、米国内で最大級のコンバインドサイクル発電所です。この発電所には、GE社製の燃焼タービン(CT)8基と蒸気タービン(ST)4基が設置されています。これらは、燃料タービン2基と蒸気タービン1基からなる「パワーブロック」単位に分けられ、1つのブロックの発電量は550 MWになります。発電所全体の発電能力は、2.2 GWです。発電所は2003年に運用開始され、通常は、サイクルおよびピークモード(連続モードとはメンテナンススケジュールが異なるモード)で運転されています。

課題

2012年、ユニオン発電所は、設備点検計画の策定に取りかかりました。計画では、燃焼タービン1台につき21日、蒸気タービン1台につき18日の点検期間が設定されました。この期間、プラントは停止します。その間に、燃料ガス制御弁と蒸気制御弁の更新を済ませる必要があります。これ以降の数年間は、設備更新のための長期間の運転停止は行われない可能性があります。信頼性を維持するために装置は新品同様の状態に戻さなければならず、スケジュールを優先して単なる応急処置のみで済ますことはできません。プラントを確実に修理なしで長期間運転できる状態にする必要がありました。

ユニオン発電所は、修理と更新を発電機メーカーに依頼したいと考えていましたが、点検期間内に修理を実施すると、小さなミス1つも許されないぎりぎりのスケジュールになります。550 MWのパワーブロックは、1日停止するだけでも大きな収益を失うことになります。

ムーグのソリューション

ユニオン発電所は、現地のムーグ代理店であるAirDraulics社に最適なソリューションについての相談を持ちかけました。修理計画の策定は、すべてのムーグ製装置の型式番号とシリアル番号を調べて、物理的レイアウトと危険区域の分類、ならびにアクチュエータ/プロセス弁の形状を特定する総合的な現場監査から始まります。監査の結果、8基の燃焼タービンは、すべてに同一の燃料ガスシステムが使用され、半数にはムーグのインレットガイドベーンアクチュエータ(IGV)が搭載されていることが分かりました。蒸気弁は、2つのブロックで24インチ弁が使われ、他の2つでは18インチ弁が使われていました。

ムーグのガスタービンアクチュエータのオーバーホール後の試験

図8: ムーグのガスタービンアクチュエータのオーバーホール後の試験

ムーグの技術サービス担当者は、この情報に基づいて、顧客の点検スケジュールを守れるように、予備、修理、交換ユニットの組み合わせを含むサービスプランを提案しました。これに加えて、ムーグはGE社製燃料ガスアクチュエータ内の複数の部品についても、運転停止メンテナンスのサイクルを延ばし、修理の頻度を減らす対策を実施して改良しました。これらのユニットには、元の部品に替えて、独自の表面コーティーングを施したロッドや、ワニスに影響されない設計のシールなど、従来品の新品よりも長寿命の部品が取り付けられました。

ユニオン発電所では、燃焼タービン用の予備のアクチュエータを1セット購入し、保有しています。予備のアクチュエータは、計画停止の際の交換用として、また非常停止時の対応に使用されます。ムーグは、ユニオン発電所が所有する予備に加え、プロセス弁が完全に装備された交換ユニットのセットを自ら用意して、各ブロックのメンテナンスに使用しました。予防メンテナンスの運転停止期間の終了後、ムーグは両方のセットを組み立て直し、ユニオン発電所の予備セットを返却し、ムーグのセットは交換用の在庫品として保管します。ムーグでは、Emersonグループの代理店NorthEast Controls社を通して、プロセス弁の修理を行っています。

蒸気タービンのアクチュエータと弁は、与えられた時間内で修理できることが分かりました。ユニオン発電所は、この修理を計画に組み入れ、アクチュエータから蒸気プロセス弁を取り外しました。アクチュエータは修理のためムーグに送られ、ムーグで修理と最終受入試験を経て現場に返却されました。発電所では、弁とアクチュエータを組み立て、完成したアセンブリをタービンに取り付けて、全体検収の中でテストを実施しました。

ムーグは、アクチュエータの修理と交換について、2年間の保証を提供しています。これは、新品のユニットの場合と同じです。

結果

ユニオン発電所では、これまでに4ブロック中3ブロックの計画停止メンテナンスを完了しています。これらはいずれもスケジュール通りに実施され、すべてのユニットは検収に合格して無事に稼働しています。2014年秋には、最後のブロックのメンテナンスが計画されています。これが完了すれば、ユニオン発電所のすべての燃料ガス弁は2年間の保証付きで長寿命仕様に更新された状態になります。

AirDraulics社のJim Howellセールスマネージャーは、このプロジェクトについて次のようにコメントしています。「ムーグは、優れたパートナーとしてこのプロジェクト全体を支えてくれています。当社の顧客のニーズを満たすメンテナンス方法を提案し、直前の変更にも柔軟に対応してくれました。ムーグがメーカーとして保有しているモーション制御部品と燃料ガスシステム全般に関する深い専門知識は、これまでのプロジェクトの成功に大きく貢献しています」


結論

ムーグのエンジニアは、ガスおよび蒸気タービンの最初の設計段階でタービンメーカーと協業して獲得した応用面の専門知識を生かし、発電プラントの寿命を延長する重要なソリューションを開発してきました。ムーグでは、こうした技術に加え、グローバルな修理のネットワークと活力あるサービスチームが連携し、モーション制御を通じて今日も世界中の人々の日常生活に欠かせない電力の継続的な供給を支えています。


筆者について

Brian Simsは、ムーグのテュークスベリー事業所に勤務する一般産業グループのサービスマネージャです。Simsは、これまで約37年に渡り、石油、ガス、一般産業、発電といった業界で使用された設備を含むあらゆる市場にまたがるエンジニアリング業務とアフターマーケットサポート業務を経験してきました。Simsは、鉱山用の堅牢型ベルトコンベヤのメーカーであるDowty Meco社に始まり、同社を含むDowtyグループで技術者としてのキャリアを積んできました。

Steve Beddickは、ムーグの一般産業グループに所属するアフターマーケット担当のセールスマネージャーです。Beddickは、これまで約30年に渡り、石油、ガス、一般産業、発電といった業界で使用される回転機械のエンジニアリングとアフターマーケットサポート業務を経験してきました。Beddickは、Grove City Collegeで電気工学の学士号を取得しています。


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