次世代型マシン内で高い能力を発揮する 電気静油圧アクチュエータ

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記事の内容:

  • 航空機から産業機械に至るまで幅広く活用される、電気静油圧アクチュエータ(EHA)
  • EHAが示す、大幅なエネルギー削減や高出力等のメリット
  • ドレスデン大学が実施した試験で、プレス機械のダイクッションの消費エネルギーを30%削減できることを確認
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航空機産業で広く利用されている電気静油圧アクチュエータ(EHA)は、電気機械技術と電気油圧技術の優れた部分を兼ね備え、産業機械への応用の可能性も拡大しています。ムーグでは、さまざまな産業用途に適し、伝統的な油圧ソリューションよりもエネルギー消費と設備コストを抑えることのできるEHA(図1)を開発しました。この技術は、使用条件の非常に厳しい複数の産業用途において有効であることが証明されており、世界中の設計技術者と機械メーカーから注目を集めています。

図1

図1: 電気静油圧アクチュエータ(EHA)の一般的レイアウト(左)と、ムーグ製EHA(右)

機械メーカー各社が次世代型マシンに搭載する前提でEHAの評価を進めているのは、次に挙げる5つの合理的な理由によるものです。

  1. 消費エネルギーを大幅に削減できるEHA技術を用いることで、従来の電気油圧(EH)や電気機械(EM)システムと同等の動作性能を維持しながら、オンデマンド出力によって消費エネルギーを大幅に削減することができます。
  2. 機械式ギヤボックスなしで高い出力が得られるEHAは、高出力のモーション制御軸に必要な大きな変速比を達成でき、魅力的なソリューションです。
  3. 出力密度が高いEHAは、電気機械ソリューションを上回る出力容量と出力密度により、機械メーカーはマシン内部の限られた空間内でより大きな力を生み出すことができます。
  4. フェールセーフ機能EHAには、EHシステムと同様の機能性とフレキシビリティを備えたフェールセーフ機能を簡単に追加できます。
  5. 既存のインフラに簡単に統合化できる:2つの技術の優れた部分を組み合わせたEHAは、これまでEMアクチュエータを使用していたマシンでも利用でき、従来の油圧システム用のインフラを必要としないため、スペースとコストを削減できます。

EHAとは?

EHAは、電気の力を油圧パワーに変換し、さらにその油圧パワーを機械的な力に変換します。EHAでは、正逆双方向に駆動できる可変速ポンプを油圧シリンダの両側のチャンバに接続して、電気サーボモータで動作させます。流れの方向により、シリンダは押し出されるか引き戻されます。一般的な油圧システムとは異なり、出力はポンプを使って制御します。ポンプの回転速度を変えることで流量または圧力を変え、油圧パワーを変化させます。これにより、電気静油圧アクチュエータはエネルギーを効率良く使用し、オンデマンドで力を発生させることができます。図2は、従来型の電気機械アクチュエータと電気油圧アクチュエータを電気静油圧アクチュエータと比較したものです。

3つのアクチュエータ技術の比較

図2: 各アクチュエータ技術の一般的レイアウトと長所の比較

EHAの利点

機械の設計にEHAを組み込むことで、数多くの利点が得られます。EHAには、従来型の油圧システムや完全電動システムと比較して、明らかなメリットがあります。以下では、機械メーカーがどのような方法で総所有コストの低減やフレキシブルな設計コンセプト、メンテナンスの簡素化によるメリットを享受できるのか、具体的に紹介します。

図3

図3: ダイクッション軸にEHAを使用した深絞りプレス機(資料提供: ドレスデン大学)

総所有コストの決定要因は多岐に渡りますが、EHA技術は、いくつかの重要な要因に影響を及ぼします。コスト削減に直結するエネルギー効率の向上は、高いコストを払ってマシンを昼夜連続で運転し続ける業種においては、特に重要な課題です。従来型の油圧式マシンと比較してEHAに備わっている大きな利点の1つは、自給式油圧システム内蔵の小型モジュール設計とオンデマンド出力の原理によって消費エネルギーを大幅に削減できるという点です。また、スロットル弁を使用しないため、システムの発熱が抑えられ、高い冷却性能を備える必要もありません。EHAの冷却は、通常は対流冷却で十分です。以下に紹介するドレスデン大学が実施した客観的な比較試験では、ダイクッションプレス機(図3)に従来型の油圧技術を使用した場合と比較して、EHAを使用した場合はエネルギー使用量が30%近く削減されたという結果が出ています。

EHAを組み入れた設計のマシンでは、機械式のギヤ装置なしで大きな力を生みだせることから、よりフレキシブルなモーション制御が可能になります。またEHAはコンパクトな自給式ユニットなので、マシン内部のスペースも節約できます。システムはさまざまなレイアウトに対応でき、シーケンス方式であれば複数の動作軸を駆動することもできます。また、動作性能は繰り返し性がきわめて高く、生産性と歩留まりを向上させることができます。例えばドレスデン大学の試験では、ダイクッションという過酷な用途にもかかわらず、EHAは従来型の油圧技術と同等の動作性能を発揮しました。さらに、EHAは高い衝撃負荷を伴う条件下でも堅牢性と信頼性が高く、マシンの信頼性と稼働率を向上できることが実証されています。

プラント操業の観点からは、完全デジタル制御によって温度ドリフトと信号ノイズによる不確実性を排除でき、マシンへの統合化と検収試運転が簡単にできます。デジタルシステムは、デジタルパラメータを複製使用することで、従来型システムで実施されていたチューニングを不要にし、複数のシステムを正確に一致させることができます。また、リモートアクセスによる診断とメンテナンスも可能にします。他にも、油圧インフラ機器を排除し自給式システムを利用することで、数多くのメリットが得られます。ハウジングやカップリング、外部ポンプが不要となり、フィルターやセンサー、弁などの定期メンテナンス時のアクセス性が向上します。EHソリューションでは作動油の品質低下や経年劣化に関して運用上の課題がありましたが、EHAではオイルが外部環境にさらされることがないため、こうした問題も軽減されます。

ドレスデン大学によるEHAと従来型油圧技術の比較評価

ムーグの航空機部門は、EHA技術に関して豊富な経験を積み重ねてきました。またムーグでは、数多くのお客様とともに、この技術の産業用途における有効性も実証してきました。ただし、これまでは既存の用途における比較データが不足していました。そこで当社では、ドレスデン大学と連携し、ダイクッションプレス機にEHAを組み込むことで、サーボ弁を使用した従来型の制御システムとの客観的な比較が可能となりました(図4)。この用途は大きな力を必要とし、従来は油圧方式の設計しかなかったことから、この比較には大きな意義があります。

ドレスデン大学の試験機

図4: ダイクッションにEHAを使用した深絞りプレス機

ダイクッションプレス機は通常プレス力が24〜4,000トンで、自動車プラントに導入され、新素材のプレス加工や、自動車のドアやフェンダー、ルーフ、ボンネットの外装および内装パネルといった複雑な形状の加工等、幅広い種類のプレス加工に利用されています。EHAプレスと従来型油圧プレスの比較試験は、ドレスデン大学の教授陣と学生によるチームが実施し、ムーグは動作性能とエネルギー効率の測定に協力しました。

試験に使用した従来型のシステムでは、油圧プレス機に4本の独立したダイクッション用シリンダを搭載し、それぞれをサーボ弁で制御しました。これら4つの動作軸に対して、1台の可変容量ポンプから作動油を供給しました。次に、ラジアルピストンポンプ1台を接続したサーボ電動モータ1台を含む試験用のEHAシステムを、ダイクッションの各シリンダに設置しました。4つの動作軸にはそれぞれアキュムレータを接続し、低圧力レベルをサポートしました。深絞り加工の際に、サーボモータ/ポンプは発電機モードで動作します。ダイクッションから回収してラムアクチュエータに供給されたエネルギーの量は、サーボドライブからのフィードバックによって特定することができました。

エネルギー消費の比較

図5: EHAを搭載した試験機のエネルギー効率

ドレスデン大学のウェバー教授は、次のように述べています。「従来と同等の動作性能と圧力制御機能を維持しながら、1回の完全なマシンサイクルで消費されるエネルギーを約30%削減することができました。EHAソリューションによる30%のエネルギー削減は劇的な改善と言えます。特に、こうしたマシンが1年間に消費する膨大なエネルギーを考えれば、その効果は非常に大きなものとなります。スロットル損失がなくなることから、将来はオイル冷却装置の負荷が大幅に下がり、場合によっては冷却装置にとって代わることも考えられます。今回の試験によって、EHA技術はエネルギー効率が非常に良く、性能面から見て有効な代替ソリューションであることが示されました」(図5を参照)(参考: ムーグホワイトペーパー「Electro-Hydrostatic Actuation: A New Energy-Efficient Option for Machine Builders」(2014年、Helbig, A.)のP.1〜8)

個別マシンに対するEHAの適性評価

特定のマシン制御用途にEHAが適しているかどうかを評価するためには、用途と性能の要件を査定する必要があります。油圧動作軸の数が比較的少ないマシンは、一般的にEHAの利用に適しています。機能のブラックボックス化に関しては、EMソリューションの場合とほぼ同じです。オートメーション・コントローラ(ほとんどの場合、PLC)との接続にはEM方式と同一のインターフェースを利用し、モーションプロファイルはデジタルインターフェース経由で設定します。EHAを導入するのに理想的なシナリオとしては、以下の2つが挙げられます。

  1. 動作軸の数が少ないEMマシンを、油圧方式と同水準の出力容量または出力密度にする目的でEHA方式に変更する場合
  2. 動作軸が1または2本のみの油圧マシンをEHA方式に変更する場合

ムーグでは、機械メーカーのお客様に対して、次世代型マシンにEHA技術を応用するための設計支援と、個別の要件査定を実施します。標準型のEHA設計を完全な形で導入する必要がない場合もあるため、モジュール式の構成ブロックも用意しています(図6)。サーボドライブとサーボモータ/ポンプを典型的なサイズごとに組み合わせるなどした標準構成ブロックに対して、設計者がマシン固有のニーズに合わせて正確にカスタマイズできるマニホールドとシリンダを用いて、設計を完成させることができます。

構成ブロックによるフレキシブルなシステム設計オプション

図6: ムーグでは、各種サイズの標準構成ブロック製品を用意しています。これらをその他のカスタム製品と組み合わせることにより、お客様のニーズにマッチした電気静油圧ソリューションを実現できます。

結論

EHA技術を用いることで、従来のEHおよびEMサーボシステムと同等の動作性能を維持しながら、オンデマンド出力によって消費エネルギーを大幅に削減できます。こうした自給式システムは、従来型の油圧システムと比較して、動作軸の性能を最適化するとともに、油圧インフラ機器を必要としない分散型のマシン設計を可能にします。電動式マシンに対するEHAの統合化は、容易に実施できます。EMソリューションと同一のインターフェースが使用されるため、設置も簡単です。また、機能面ではよりフレキシブルな応用が可能になり、従来の電気システムより大きな力を生みだすことができるようになります。

EHAは、導入を検討すべき段階に達しているのでしょうか?大幅なエネルギー消費削減の可能性と、機械式ギヤボックスなしで高い出力が得られる性能に加え、システム設計とメンテナンスが簡単に実施できるEHAは、従来型サーボシステムに対する代替手法として検討に値します。詳細は日本ムーグまでお問い合わせください。

筆者について

Achim Helbigは2004年にムーグに入社し、シニアアプリケーションエンジニア、油圧システムチームマネージャー、ならびに技術革新プロジェクトマネージャーを務めています。ムーグに入社する以前はドレスデン大学に勤務し、博士過程を修了しました。

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