ファイバーブラシ型スリップリング
風力発電機のメンテナンスを予測可能に
タイプ別の市場構成
現在、風力発電機に使われているスリップリングの約10%は、メンテナンスの必要性がゼロまたはほとんどないファイバーブラシ型です。一方、約60%を占める主流のスリップリングでは、一般的に、金属と黒鉛による導電性の混合焼結ブロックから作られた複合金属材料製のブラシが使われています。このような複合金属ブラシを使ったスリップリングは、メーカーによれば最大7,500万回転まで使用可能ですが、頻繁なメンテナンスが必要です。残り30%のスリップリングは、金など貴金属製の単線ブラシを使用するタイプです。複合金属ブラシや単線ブラシを使ったスリップリングは、ファイバーブラシスリップリングより多くのメンテナンスを必要とします。
その理由は次の通りです。
複合材料ブラシ スリップリング 問題点
まず複合材料のブラシは、リングが摩耗しないようブラシを優先的に摩耗させる設計であることから、ブラシ交換までの時間を最大化するためブラシを十分長くする必要があります。高出力・高信頼性が要求される用途においては、この材料には以下の3つの問題点があります。
- 運転中に発生する摩耗くずは導電性で摩耗性が高く、粉末状であることから、定期的な清掃が必要。
- 水分の影響を受けやすく、相対湿度が15%未満または85%超の条件下では摩耗が不均一になりやすい。
- 信号回路に使用する場合、多くのスペースが必要。
単線ブラシ スリップリング 問題点
一方、単線ブラシのスリップリングは、複合材料ブラシと比べて摩耗くずが少なく、より多くの信号回路に対応できます。しかし、この接触システムにも次のような短所があります。
- 単線の接触ブラシが比較的小さいため、電流の伝達能力が限られている。
- 金・金接点の場合などは基本的に潤滑が必要だが、十分な潤滑剤を常時供給するのが困難。
ハイブリッド型スリップリングは風力発電には不向き
以上の理由から、市場には、電源回路に黒鉛と金属の複合材料ブラシを使用し、信号回路に金の単線ブラシを使用する製品が登場しています。こうした「ハイブリッド型」のスリップリングは、必要回転数の少ない用途においては、満足できるレベルの性能を発揮します。しかし、この黒鉛複合材料ブラシと金の接触ブラシの組み合わせは、風力発電用途においては信頼性の低下につながるおそれがあります。黒鉛複合材料の摩耗くずが金の信号用リング接点に接触すると、摩耗性のスラリーが形成されることがあり、潤滑剤が介在する場合には、そのリスクがさらに高まります。こうしたスラリーは、信号回路の早期故障の原因になります。
ファイバーブラシ スリップリングが解決
ファイバーブラシ方式では、多数の金属フィラメントを束ねて作ったコンパクトなマルチファイバーブラシが使われます。一般的に、ファイバーの材料は単線ブラシにも使われる貴金属で、ブラシが接触するリングにも貴金属のメッキが施されます。貴金属を使うことにより、接点上に酸化物や被膜ができないため、接触圧を非常に小さくすることができます。そのため摩耗率も小さく、摩耗くずがほとんど発生しません。さらに、多数の金属ファイバーから構成されるブラシは導電性に優れ電流密度も高いことから、電源用にも信号用にも適しています。